子役ではなく、天才ヴァイオリニスト少年が演じた理由
――中心となる2人の人物、マーティンとドヴィドルを少年期、青年期、中年期で6人の俳優が演じ分けていますが、全く違和感なく成立しています。天才ヴァイオリニストであるドヴィドルの少年期を演じるのは、ウェールズ国立青年オーケストラに最年少で所属するヴァイオリニストのルーク・ドイルです。演技が未知数のドイルを起用した理由は?
ドヴィドル役に関しては、まず中年期を演じるのはカリスマ性をもった、顔の知られたスターを配役したいと思っていました。そうなると、その俳優がヴァイオリンを出来る可能性はほぼない(笑)。それは最初から分かっていましたから、クライヴ・オーウェンにヴァイオリンを練習してもらうことにしました。逆に、少年期のドヴィドルにピッタリな11〜12歳の子役を見つけるのは難しい。それなら、音楽的な天才を探す方が良いだろうというアプローチで、ルーク・ドイルを見つけたのです。
――演技力と音楽力には親和性があると思いますか?
彼はすでにヴァイオリンを通して自己表現が出来ていましたから、演技も彼からは遠くないだろうと考えました。すでに自己表現というモードに入っているわけだから。その可能性に賭けたという感じです。『レッド・バイオリン』に出てきたカスパー・ワイス(クリストフ・コンツェ)も同じ戦略でやったのですが、あのときも今回も、とても上手くいったと思っています。
――青年期のドヴィドル役はジョナ・ハウアー=キングが演じていますが、俳優から選ぶか、ヴァイオリニストから選ぶか迷ったのでは?
そうなんですよ。青年期は役者に行っても、音楽家に行ってもどちらでも良かったわけですが、今回はスキルのある役者から選ぼうと思いました。ジョナはこれから素晴らしいキャリアが拓けていく役者だと思います。と言っても、今の答えは、私が頭で考えた理性的な答えです(笑)。実際は非理性的な直感や本能であったり、フィーリングというものもキャスティングにはとても重要で、オーディションやミーティングをするなかで、その人が合っているかどうか分かるものなんですよね。
――別々の俳優たちが1人の人物を演じていても、一本線が通っているように思えるのは、そうした“直感”が果たした役割も大きそうですね。マーティンは少年の頃からピアノを弾いていますが、中年となってティム・ロスが演じても、いつでもピアノが弾けそうに見えるのは『海の上のピアニスト』の記憶が今も鮮明なせいでしょうか?
そうかもしれない(笑)。私は『海の上のピアニスト』を舞台で演出したこともあるので、この映画には、そういう縁も感じます。