[ 設立30周年記念特集 #01 ] LiLiCo ×よしひろまさみち が「サーチライト・ピクチャーズの“過去・現在・未来”」を語る [ 過去編 ]
人々の記憶に残る数々の名作を作り続けて、アカデミー賞®作品賞に5度輝くサーチライト・ピクチャーズが、2024年で設立30周年を迎えた。
20世紀フォックスが立ち上げ、今はディズニーの傘下となったサーチライト・ピクチャーズのこれまでを振り返り、その価値、強み、心に残る作品たち、さらにこれからのサーチライト・ピクチャーズに寄せる期待を、映画コメンテーター のLiLiCo、映画ライターのよしひろまさみちの両氏に語っていただきました。
サーチライト・ピクチャーズという存在の大きな意味
――2024年にサーチライト・ピクチャーズが、設立30周年を迎えました。そこで、サーチライト・ピクチャーズのこれまでの歴史を振り返ってみて、おすすめの作品、これから期待することなどを、LiLiCoさんとよしひろまさみちさんに伺っていきたいと思います。まず、サーチライト・ピクチャーズの存在というのがどのような意味を持っていたのか、そのあたりについてお二人に伺いたいのですが。
LiLiCo 最高の作品を提供し続けてくれているから、30年続いたのだと思います。サーチライトというのは、アーティスティックな作品を作りたいということで30年前に20世紀フォックスが立ち上げたわけですよね。新しいレーベルなり映画会社というのは、誰でも作ることはできると思うんですけど、30年間作り続けて、コンスタントにヒットも出してというのは、やはりすごいことですよ。なんでもそうですが、20年頑張ってやっとご褒美がある、真田広之さんもアメリカに拠点を移して20年頑張ってようやくご褒美がありました。そのままさらに10年頑張って30年まで続ければもう大丈夫、なんでもできるようになると思っています。
よしひろ 確かに、このようなタイプのスタジオで今も続いているのはサーチライトだけなんですよね。ビッグスタジオのサブレーベルとして出てきたのは他にもありました。パラマウントはパラマウント・ヴァンテージ(旧名:パラマウント・クラシックス)を試しにやっていましたし、ワーナーがニュー・ライン・シネマを買い取った背景にも、そういう意図があったと思います。でもサーチライトがこうして生き残っているのは、一つには、クリエイターの信頼が厚いというのがあるんじゃないですか。だから、いいクリエイターが集まってくる。
LiLiCo クリエイターの方もわかっているんでしょうね。
よしひろ 実際の製作環境がどうなのかというのはわかりませんけど、他のところよりいいのかな。好きなことをさせてくれるとかね。アワード狙いという言葉であまり括りたくはないけど、結果として、アートであってかつ娯楽も兼ねているようなバランスのいい作品が続いてきています。
LiLiCo 20世紀フォックスといえば大作ばかりでしたよね。
よしひろ 今でも『タイタニック』(1997)の会社っていうのが一般的イメージ。
――でもあの『タイタニック』と同じ年、その裏で『フル・モンティ』(1997)が作られていたんですよ。
よしひろ そう、私の大好きな『フル・モンティ』(笑)。
LiLiCo それと、サーチライトの試写室の映写技師のタカノさん、あの人の力もあったと思う。もちろんフォックスの宣伝の皆さんが頑張っていたのもあるんですが、タカノさんが一番あそこで作品を観ていた。特に昔はフィルムですから、入れ替える必要がありますからね。それで試写に行くと「LiLiCoさん、これすごくいいんだよ」と話してくれるわけです。そういう人の繋がりって大きいと思うんですよ。たとえば同じ公開日だったら、そういう繋がりのある方を優先しようとなるもの。今は結構皆さんハガキ送って終わりじゃなくて電話くれたりしますけど。
よしひろ 私のところには全然電話ありませんが(笑)。でも確かに人の繋がりが大事ですよね。四半世紀以上、このお仕事をほそぼそ続けられたのもそのおかげです。
LiLiCo サーチライトが日本で認識されたのって、『JUNO/ジュノ』(2007)あたりからですかね。
――そうかもしれないですね。
よしひろ 最初のうちはサーチライトというよりは、フォックスのちょっと変わった作品という感じでしたよね。それが、賞絡みの作品がじわじわとサーチライトに絞られてきたというイメージがありますね。そういう認識がされ始めたのが『JUNO/ジュノ』くらいですけど、なにか社内の変化あったんですか?
――宣伝が分かれたのが2006年から。それまではフォックスと一緒で、そのタイミングで本社も別のチームになったと聞いたことがあります。『JUNO/ジュノ』はそのちょっと後なので、サーチライトっぽさが出てきた頃かもしれません。
LiLiCo 舞台にしやすい作品も結構あるんですよね。私が出演したミュージカルの『ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた』(2007)、『フル・モンティ』もだよね。
よしひろ そう、『フル・モンティ』もミュージカルになって、しかも続編のドラマまで作られましたから(笑)。アートハウスに近いような映画の中でも、娯楽性に秀でた作品だと他のフォーマットにもなりやすいんでしょうね。
LiLiCo あとは、よくありがちな、「前例がないからやらない」ではなくて「前例がないからやる」という今どきの考え方、他でやったことがないようなテーマにも果敢に取り組むのはサーチライトの強みだと思う。
よしひろ それがわかる人がフォロワーとしてついていくんですよね。
LiLiCo しかも、サーチライトのすごいところはフォロワーがついたらそれを手放さない。大きな会社は、「もう飽きたから」と途中で手放したりするけど、それがない。だからみんなずっと居ます。
よしひろ 確かに。クリエイターだけでなくサーチライトのファン対応もそうなんですが、人を大切にしているのがわかる。その辺りは30年かけないと出てこない特色なんでしょうね。
ディズニーのもとで広がった可能性
よしひろ サーチライトがフォックスとともにディズニーの一部になった時、実は私は不安だったんです。せっかくここまで築いてきたものが、ディズニーの色に染まってしまったら台無しになるんじゃないかと。でも杞憂でしたね。そこはちゃんと守ってくれた。
――当時、みなさん不安そうでした。そこを残せたのは、やっぱりいろんな人が声をあげたからだと思います。ディズニーによる買収が発表される直前に、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)がオスカーを獲りました。その彼も声を上げていたし、スカーレット・ヨハンソンなどもそうです。
よしひろ クリエイターや役者が声をあげることはすごく大事なことですよね。
――結果として、逆によくこういう大胆な企画を通しているなというのが割と続いていると思います。
よしひろ ディズニーがフォックスを買収したのがちょうどコロナが来ちゃったという頃だったじゃないですか。あのタイミングだったから、サーチライトがやりそうな企画を、Netflixが全部持っていっちゃった。これは本気でヤバいのではと思ったんだけど、ちゃんといいところは残していたんですね。
LiLiCo しかも、サーチライトがディズニーになってから、存在も目立つようになった。
よしひろ 20世紀スタジオをはじめ、他のレーベルと全然毛色が違いますからね。
LiLiCo それまではサーチライトって言ってたのは業界の内だけって感じだったのが、一般の人も「ディズニーのミニシアター系」みたいな形で存在を認識するようになった。それと大きいのがディズニープラス(Disney+)の存在です。サーチライトにいい作品がたくさんあるのに、これまではそれこそ中古のDVDくらいしか観る方法がなかった。それが今は配信で間違いなく観られます。それは本当にありがたいと思って。
よしひろ 最初にディズニープラスがローンチした時には、旧フォックスの作品が全然入っていなくて、「うわあ、せっかく配信始めたのにこれで大丈夫なのか?」と思ったんです。が、プラットフォーム内でブランディングがされて、スターがローンチしたところでドーンと作品が来たのは忘れられません。あのときは、ああよかったと安心しました。
LiLiCo ディズニープラスのサービスが始まった時に連載コラムを頼まれたんだけど、最初のうちは作品数が少なくてクリスマスなのに『わんわん物語』(1955)くらいしかなかった(笑)。それとスウェーデンのクリスマスを結びつけて何とか書いたのを覚えています。そのあと、2023年にディズニープラスから配信されたドラマ「季節のない街」に私も出ていたんですが、その時にわかったのは、結構みんな観ていたんです。反響があってびっくりしました。
――いろいろな配信サービスがありますけど、ディズニープラスの、特にアクティブユーザーの数は他と比べてもかなり多いんじゃないかと思います。
LiLiCo 本当にいろんな可能性のある独自のプラットフォームだよね。ディズニープラスのラインアップの中にサーチライトの作品が入っているというのは、ここ最近の映画界に対して一番感謝したいところです。
――そこが、ディズニーがフォックスを買収した一番の目的だったと思います。結局ディズニーってどうしても色が決まっちゃうから、そうじゃないものが欲しい。そうすると、ディズニーの中でサーチライトが目立っちゃうというのは多分意図していたことだと思います。だから、今回の30周年記念の企画というのは、そういう裏テーマもある。決して旧作を劇場で観られるというのだけが目的じゃなくて、他の作品たちも配信で観られますよというのを前に出していかないと、というのがあると思うんです。
LiLiCo ときどき、「LiLiCoさんは1年間でどのくらい映画を観ますか」とマウントをとってくる人がいるんですが、映画通、映画好きというならば、サーチライトの作品はぜひ観てほしいですよね。
――これまでの作品数は200本強だそうです。
LiLiCo 来年はサーチライトの作品を見るというテーマで過ごしたら楽しいんじゃないですか(笑)。もちろん1年では難しいかもしれないので5年くらいかけて。その価値はあると思います。
取材 / otocoto編集部
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
プロフィール
1970年スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日、1989年から芸能活動スタート。TBS「王様のブランチ」に映画コメンテーターとして出演、J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」など出演番組も多数。アニメ「サウスパーク」日本語吹き替え版では声優としてカートマン役を担当、ほかナレーション、俳優などマルチに活躍。ファッションにも意欲的に取り組み、服やジュエリーのデザイン、プロデュースも手掛ける。
1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『an・an』『スクリーン』、『with』『ぴあ』など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。『加藤浩次とよしひろのサンデーシネマ』や『THE TRAD』『PAO〜N』など、テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。
© 1997 Twentieth Century Fox Film Corporation and Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
© 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
© 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
デジタル配信中(購入/レンタル)© 2024 20th Century Studios.
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2024 Disney and its related entities. All Rights Reserved.
© 2024 Disney and its related entities. All Rights Reserved.