齊藤京子インタビュー アイドルを辞めても残るもの 『恋愛裁判』
人気急上昇中のアイドルグループのセンターが恋に落ちた。彼女は所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられ、法廷で厳しく追及されることとなる。1月23日公開の深田晃司監督による『恋愛裁判』は、アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する女性を描いている。
劇中で5人組アイドルグループを演じるのは、グループアイドルの経験者たち。彼女たちのアイドル活動を知っている者からすれば、困惑することもあるかもしれない。だからこそ、その動きが、歌声が、セリフの一つ一つが刺さるリアリティを感じさせる。
週刊誌報道だけでなく、SNSでも熱愛が即時拡散される昨今。アイドルに恋をしてもいいが、アイドルが恋をすると罪になるのか。タブー視される題材に正面から挑んだ作品の魅力、そしてアイドル経験者として、主演を演じ切った日向坂46出身の齊藤京子さんに、アイドルとは何か、ファンとは何かを伺った。

「ちょっと話がある」と言われて
——この作品のオファーを受けたときの感想を教えてください。
アイドルの恋愛禁止を題材とした物語ということで、最初はすごく衝撃を受けましたし、元アイドルの私が、この役を演じていいのだろうかという葛藤もありました。
卒業から2カ月後ぐらいにお話をいただいて、マネージャーさんに「ちょっと次の作品で話があって‥‥」と結構深刻な感じで言われたんです。どんな作品なんだろう? 演じるにはカロリーが高いシーンがあるとか、何かすごいことがあると想像していたんです。そうしたらこの作品のお話でした。客観的に物語がとにかく面白かったというのと、この主人公をぜひ演じたいし、元アイドルの私がやることで、よりリアリティがあるものにできたらなという思いで臨ませていただきました。
——完成された本編をご覧になっていかがでしたか?
撮影に臨む前に深田監督の作品を何作か拝見しました。お芝居をしている感じでもなく、撮影している感じでもない、ドキュメンタリー映画のような印象を受けていたので、この作品にもそれを投影できたらなと思っていました。完成された本編を観ると、同じ印象を感じられたので、ミッションはクリアできたんじゃないかなと思います。


リアリティは必要だが生々しさはいらない
——演じられたのは、アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のセンター・山岡真衣という役柄です。ご自身のグループ活動時代と重なる部分もあると思いますが、演じる上で、どんなことを大切にされましたか?
アイドル役っていうこともあって、過去に所属していたグループや、”アイドルの齊藤京子”を連想させたくないなという思いがありました。
それは、齊藤京子が演じているという意識を超えて、ちゃんと山岡真衣として、この物語に入り込んでもらいたいからです。その上で、アイドルだった時にやったことのなかった髪型をしてみたり、この作品で初めて髪を染めたりもしました。とにかく、自分のアイドル時代を彷彿させない山岡真衣というアイドルを作りました。
——「ハッピー☆ファンファーレ」として、「秒速ラヴァー」「君色ナミダ」という楽曲もリリースされています。劇中に流れるMVもライブも本当にリアルに感じました。
ライブシーンは、演じているメンバー5人の各ファンクラブから、本物のファンの方たちに集まってもらい、ファン役として出演されています。ある意味、ファンのプロなのでライブのシーンなどはリアルだと思います。
スタッフさんから「ファンの人を実際に会場に入れます」と言われたときは、すごく嬉しかったですし、ファンの方も「またアイドルの京子を見ることができて嬉しかった」と言ってくださいました。よりリアル感を出してくれたのは、ファンの皆さんだったかなと思います。あと、現役アイドルグループの振付をされている竹中夏海さんが、「ハッピー☆ファンファーレ」の振付を担当されているので、本当のアイドルの活動を投影していますね。








ファンとは何か? アイドルとは何か?
——本作を拝見していると、アイドルはファンに救われているけれど、悩まされてもいるとも感じました。齊藤さんとってファンってどんな存在ですか?
私にとっては、ずっといてもらわないと困る存在。アイドルを卒業して俳優としてやっている今でも、ファンの方を第一に考えて生活しています。
アイドル時代に、ファンの方に直接メッセージを届けるメッセージアプリをやっていたんです。ファンの皆さんと関われるコミュニティをなくしたくないっていう思いがすごく強くて、「それだけは卒業してからも絶対にやりたい」と事務所に相談させていただいて、今も継続させていただいています。そのメッセージアプリでファンの方が喜ぶことを考えたりとか、イベントを企画したりというのは、割と毎日しています。それを考えているときは本当にいつも楽しくて”天職だなぁ”と思いますね。
ファンの方には「カンヌとか行っても何も変わらないね」と言われます (笑)。でも「それが嬉しかった」と言ってくださったんですね。「辞めたからもう終わりかと思ったけど、全然これからだったな」とか、私がグループからソロになったので、むしろ会える機会が増えて「逆に一人で会えるからより多く見られる」と言われています。私はアイドルを辞めても、ファンの方への接し方は全く変わらないです。
——ご自身もアイドルが好きだと伺いましたが、齊藤さんにとって「アイドル」とは何ですか?
やっぱり、夢や希望をもらえる人。私自身が、AKB48時代から大島優子さんの大ファンなんです。女性アイドル、同性のアイドルのファンというのもあって、憧れの存在であり、理想のアイドル像であり、理想の女性像のように捉えています。同性だからという意味で、アイドルが恋愛をしていたとしても、私自身は何とも思わない。
日本のアイドル文化は、ちょっと変わっていて、韓国のアイドルは、女性のファンが多くて熱愛報道が出ても日本ほど荒れない。「女友達に彼氏できたよ」みたいな感覚ですね。

自分で選択する自由
——物語は、恋をしてしまったアイドル・山岡真衣を中心に進みますが、同じ寮で生活しているメンバーの大谷梨紗、清水奈々香にも転機が訪れます。アイドルとして、女性として、自分の貫き方をそれぞれが示してくれていると思います。齊藤さんは個人的に3人のうち誰の決断に共感しますか?
難しいですね。真衣か、梨紗ですかね‥‥。客観的に見ていて気持ちよかったな、っていうのはその二人ですね。
——齊藤さんが演じられた山岡真衣は、アイドルを辞めることになります。裁判のシーンになると、顔が変わったという印象を受けました。アイドル時代とその後の演じ分けは、どのように気持ちをつくっていったのかを伺いたいです。
自分自身で意識的に変えたのはヘアメイクですね。別人みたいにやつれている感じに仕上げたくて、みなさんと話し合って変化を出しました。アイドルパートから裁判のシーンの撮影になると、ガラッと雰囲気が変わって別作品かのような感じだったので、アイドルを辞めてからの心情みたいなものは、雰囲気がそうさせてくれたというか、自然に入り込めましたね。
——齊藤さんご自身が「アイドル」を辞めて、ホッとしたことってありますか?
ええ、なんだろう‥‥。私はどちらかというと「ああ、卒業してしまった」っていう方なんですよね。「寂しいな」とか「本当に辞めちゃったな」みたいな気持ちだったので、あまり「解放されたな」とか、そういうのは正直あまりない。むしろ「ああ、もう戻れないんだ」みたいな気持ちでしたね。だからこの作品で役として、またアイドルができたというのは、すごく幸せでした。
——アイドル経験者として、この作品をどう捉えていますか?
恋愛禁止について、アイドルという職業について深く知れる作品になっているなと思います。私もアイドルが好きなので、アイドルという職業は素敵だなとも思いつつ、人として生きてはいるけど、恋愛禁止というアイドルならではのルールがある。どうしても矛盾が生じてきてしまうところで、なかなか答えにたどり着かないなと思いました。
——最後に、本作『恋愛裁判』に興味を持った人に向けて、メッセージをお願いします。
この作品はアイドルの恋愛禁止というタブー視されている題材を、あえて選んだ物語です。あまりこういう映画は観たことがないと思いますが、みなさん一度は、考えたことがある問題だと思うので、改めて考え直せる機会になるんじゃないかなと思います。
またアイドルの恋愛だけではなく、自分らしさについて、自分が選択する人生の道についても描かれています。きっと”自分らしく自由でいいんだな”と思える作品なので、ぜひ劇場で見ていただきたいです。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理
ヘアメイク:木戸出 香 / スタイリスト:藤井エヴィ


映画『恋愛裁判』
人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止」ルールと、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
企画・脚本・監督:深田晃司
出演:齊藤京子、倉悠貴、仲村悠菜、小川未祐、今村美月、桜ひなの、唐田えりか、 津田健次郎
配給:東宝
©2025「恋愛裁判」製作委員会
2026年1月23日(金) 公開
公式サイト renai-saiban.toho