ラストシーンの正解は決めていない
――『友罪』は神戸での上映は見送られるなど、犯罪を題材にした映画はリスクを伴うこともあるようですね。
『友罪』は薬丸岳さんのフィクション小説が原作ですが、地域感情を考慮しての判断でした。少年Aという存在は、それだけ大きなものでした。今回は長野県飯山市などでロケ撮影させてもらいましたが、綾野剛さん、杉咲花さん、佐藤浩市さんらがロケに参加したこともあり、現地では温かく迎え入れてもらえました。飯山市で毎年秋に行なわれている奈良澤神社の火祭り“大天狗の舞”は10年くらい前に観て、ずっと映画にしたいと考えていたんです。
――『64 -ロクヨン-』で事件の真相を追求する警察官を演じていた佐藤浩市さんが、今回は逆に追い詰められていく側になっている点もおもしろく感じました。
最近の佐藤浩市さんは頼れる上司役が多いから、違った役に挑戦してほしかったんです。三國連太郎さんが出演した『復讐するは我にあり』(79年)みたいな役をやってほしいなと。浩市さんが演じた善次郎は真面目な性格で、犬をかわいがる純粋なキャラクターです。そんな純粋さに近いものを浩市さんも持っている。それもあっての起用です。
――前半の『青田Y字路』で少女誘拐犯に疑われた豪士(綾野剛)がラストシーンでもキーパーソンとなっています。観る人によって解釈が異なるエンディングではないでしょうか。
観る人によって、まったく違うでしょうね。ラストシーンの解釈はこれが正解だというのは決めていません。真犯人は誰なのかも含め、観た人にそれぞれ解釈してほしいと思っています。僕は原作の『青田Y字路』を読み終えた際に、亡くなった少女と豪士の二人が異世界へと向かっているような読後感があったんです。ここではないどこかへ、次元の異なる新しいステージへと向かっているように感じたられた。そこが理想の世界かどうかは分かりませんが、彼らが新しい世界を目指す後ろ姿から“楽園”というタイトルも思い浮かんできたんです。
文学界の新しい流れが映画作りのきっかけに
――瀬々監督の思い出の一冊を教えてください。
10代のころなら、庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』かな。大学紛争時の高校生を主人公にした青春小説でした。僕が10代のころは、庄司薫は大変なブームだったんです。しばらくして、『僕って何』の三田誠広さん、『限りなく透明に近いブルー』の村上龍さんといった新人作家たちも次々と登場することになった。文学の世界が大きく変わっていくのを感じました。そのきっかけになったのが、庄司薫さんだったように思います。そういった新しい青春小説を読むようになった僕らは、作家たちよりもひと回り下の世代だったわけですが、じゃあ僕らは新しい映画を作ろう。そんな気分になったように思いますね。
――『楽園』では杉咲花、村上虹郎の若い二人が希望を感じさせる存在になっています。瀬々監督の次回作『糸』(2020年4月24日公開)では菅田将暉、小松菜奈を主演に起用。若い世代を演出していて、感じるものがありますか?
あの世代はおもしろいですよ。これまでの世代とは、ちょっと違ったものを感じさせます。人間的にも表現者としても、優しいものがありますね。『糸』は編集作業を進めているところです。各地でのロケが続き、大変でした。自分から企画した『楽園』と同様に『糸』も監督生命が掛かっているので、みなさんどうかよろしくお願いします(笑)。
取材・文/長野辰次
撮影/名児耶 洋
1960年、大分県生まれ。京都大学文学部卒業後、『課外授業 暴行』(89年)で商業映画監督デビュー。実在の事件をモチーフにしたオリジナル作品『ヘヴンズ ストーリー』(10年)はベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞&NETPAC賞を受賞。『64 -ロクヨン-』(16年)、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17年)などのヒット作でも知られる。そのほかの主な監督作に『友罪』『菊とギロチン』(ともに18年)など。菅田将暉、小松菜奈主演による『糸』は2020年4月24日に公開の予定。
あるY字路で起こった少女失踪事件。未解決のまま、家族や周辺住民に深い影を落とし、直前まで一緒にいた少女の親友・紡(杉咲花)は罪悪感を抱えたまま成長する。12年後、またそこで少女が姿を消し、町営住宅で暮らす青年・中村豪士(綾野剛)が容疑者として疑われた。互いの不遇に共感しあっていた豪士を犯人とは信じ難い紡だったが、住民の疑念が一気に暴発し、追い詰められた豪士は街へと逃れ、思いもよらぬ自体に発展する。その惨事を目撃していた田中善次郎(佐藤浩市)は、Y字路に続く集落で、亡き妻を想いながら愛犬・レオと暮らしていた。しかし、養蜂での村おこしの計画がこじれ、村人から拒絶され孤立を深めていく。次第に正気は失われ、想像もつかなかった事件が巻き起こる。Y字路から起こった2つの事件、そして3人の運命の結末は――。
原作:吉田修一『犯罪小説集』(角川文庫刊)
監督・脚本:瀬々敬久
出演:綾野剛 / 杉咲花 佐藤浩市 村上虹郎 片岡礼子 黒沢あすか 石橋静河 根岸季衣 柄本明
主題歌:上白石萌音『一縷』(ユニバーサルJ) 作詞・作曲・プロデュース:野田洋次郎
配給:KADOKAWA
2019年10月18日(金)公開
©2019「楽園」製作委員会
公式サイト:rakuen-movie.jp