設定の違いと原作の活かし方
ーー 映画は原作の第三部をもとにされてるかと思いますが、舞台を韓国にすることで、原作と設定がまるっきり異なるわけじゃないですか。そのあたりについては、どうお考えですか?
特に違和感はありませんでした。この原作は三部に別れていて、第一部、第二部は駐在警官の話です。そこまで含めての映画化すると、交番制度のない韓国だと、ちょっときついかなと思いました。けれど実際、企画書、シノプシスが上がってきたとき、読んだら三部中心だったので、違和感なしに観られる映画になってるだろう、とは思いましたね。
ーー とはいっても、原作は、祖父・父・息子の三代に渡る警官を描いた、三部構成の大河小説です。第三部だけを切り取ると”警官の血”という意味合いが違った印象になるとは思いませんでしたか?
原作は仰る通り、大河ドラマ的な書き方なんですよね。だから映像化はしにくいだろうと確信もありました。警察人情ドラマとして日本で映像化してくれたときも意外でした。派手なところはないし、こんな長い話できるんですか?ってね。
映画は祖父から続く血の流れまでは描いていないけれども、父と子の話として、そのエッセンスを十分に使ってくれてるんですよね。
ーー なるほど。原作のエッセンスを活かされて嬉しかったというシーンはありますか?
チェ・ウシクさん演じる新人刑事のチェ・ミンジェが、亡き父との想い出を回想するエピソードの使われ方は、間違いなく「原作の主題を活かしてくれている」という描き方でしたね。
新人刑事と広域捜査隊のエース刑事の2人がどういう関係だったのか。原作にはないエピソードでも語られているけど、これは父と子の物語である。そのテーマから外れていない。
ーー 父親から受け継がれたホイッスルも出てきました。
ホイッスルもそうですね。もしかしたら原作よりも象徴的に出てきているかもしれません。映画序盤の法廷シーンから出てくるし、要所要所でホイッスルがシンボルとして扱われていて、本当に「制作サイドが原作をリスペクトしてくれてるんだな」と思いました。
ーー 原作を活かしつつ、別の父と息子の物語にしてもらったという印象が強いと。
そうですね。原作は二代目の父、三代目である息子は、もうちょっと重くて暗い関係なんです。それは原作者として、誤読というわけではなく「こういうふうに原作のテーマを映像化してくれたんだ」という嬉しい思いの方が強いですね。
ーー 映画全体を通しての印象はいかがでした?
想像していた以上にスタイリッシュで、私が韓国のアクション映画に期待するような、テンポの良さでした。1.5倍速でストーリーが進んでいくんじゃないかというテンポですが、作品のトーンは最初から最後まで全然乱れない。
ーー とても、かっこよかったですよね、いわゆる韓国独特の映像で。
セリフも含めてこれだけ原作の要素を活かしてくれて、こんなにスタイリッシュな映像になって、「自分の原作に、こんな映画ができるような要素があったんだ」という驚きさえ、感じましたね。
第三部だけを映画にしてくれたおかげで、逆にテーマも分かりやすくなって「こんなテンポのいいアクション映画になるんだ」という驚きもありましたね。
ーー 映画のラストはどんな印象でしたか?
映像全般そうですが説明的でないところがよかったです。映画のラストシーンの2人のやりとりは、続編にあたる小説「警官の条件」のテーマを生かしてくれたのかな、と感じました。
最後ベタベタさせずに、会話で終わらせる、いい終わり方だなと。
ーー 大絶賛じゃないですか
はい(笑)。大絶賛ですね。
取材・文・構成 / 小倉靖史
撮影 / 曽我美芽
警官殺害事件の裏で糸を引く人物として浮上した、広域捜査隊のエース刑事パク・ガンユン。出処不明の莫大な後援金を受け、裏社会に精通しながら違法捜査を繰り返していた。彼を内偵調査するのは、警官の父を持つ新人刑事チェ・ミンジェ。2人は新種の麻薬捜査をするも、捜査費が足りず、ガンユンは遂に警官として越えてはならない一線を越えてしまい‥‥警察内部の秘密組織とその裏に隠された不正行為、そして、殉職した父の真相。警察組織の闇に触れるとき、予想を裏切る展開が待ち受ける。
監督:イ・ギュマン
原作:佐々木譲『警官の血』(新潮文庫刊)
出演:チョ・ジヌン、チェ・ウシク、パク・ヒスン、クォン・ユル、パク・ミョンフン
配給:クロックワークス
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