Oct 28, 2022 interview

原作者から見た、映画『警官の血』ーー作家・佐々木譲インタビュー「小説の主題から外れない映像化」

A A
SHARE

設定の違いと原作の活かし方

ーー 映画は原作の第三部をもとにされてるかと思いますが、舞台を韓国にすることで、原作と設定がまるっきり異なるわけじゃないですか。そのあたりについては、どうお考えですか?

特に違和感はありませんでした。この原作は三部に別れていて、第一部、第二部は駐在警官の話です。そこまで含めての映画化すると、交番制度のない韓国だと、ちょっときついかなと思いました。けれど実際、企画書、シノプシスが上がってきたとき、読んだら三部中心だったので、違和感なしに観られる映画になってるだろう、とは思いましたね。

ーー とはいっても、原作は、祖父・父・息子の三代に渡る警官を描いた、三部構成の大河小説です。第三部だけを切り取ると”警官の血”という意味合いが違った印象になるとは思いませんでしたか?

原作は仰る通り、大河ドラマ的な書き方なんですよね。だから映像化はしにくいだろうと確信もありました。警察人情ドラマとして日本で映像化してくれたときも意外でした。派手なところはないし、こんな長い話できるんですか?ってね。

映画は祖父から続く血の流れまでは描いていないけれども、父と子の話として、そのエッセンスを十分に使ってくれてるんですよね。

ーー なるほど。原作のエッセンスを活かされて嬉しかったというシーンはありますか?

チェ・ウシクさん演じる新人刑事のチェ・ミンジェが、亡き父との想い出を回想するエピソードの使われ方は、間違いなく「原作の主題を活かしてくれている」という描き方でしたね。

新人刑事と広域捜査隊のエース刑事の2人がどういう関係だったのか。原作にはないエピソードでも語られているけど、これは父と子の物語である。そのテーマから外れていない。

ーー 父親から受け継がれたホイッスルも出てきました。

ホイッスルもそうですね。もしかしたら原作よりも象徴的に出てきているかもしれません。映画序盤の法廷シーンから出てくるし、要所要所でホイッスルがシンボルとして扱われていて、本当に「制作サイドが原作をリスペクトしてくれてるんだな」と思いました。

ーー 原作を活かしつつ、別の父と息子の物語にしてもらったという印象が強いと。

そうですね。原作は二代目の父、三代目である息子は、もうちょっと重くて暗い関係なんです。それは原作者として、誤読というわけではなく「こういうふうに原作のテーマを映像化してくれたんだ」という嬉しい思いの方が強いですね。

ーー 映画全体を通しての印象はいかがでした?

想像していた以上にスタイリッシュで、私が韓国のアクション映画に期待するような、テンポの良さでした。1.5倍速でストーリーが進んでいくんじゃないかというテンポですが、作品のトーンは最初から最後まで全然乱れない。

ーー とても、かっこよかったですよね、いわゆる韓国独特の映像で。

セリフも含めてこれだけ原作の要素を活かしてくれて、こんなにスタイリッシュな映像になって、「自分の原作に、こんな映画ができるような要素があったんだ」という驚きさえ、感じましたね。

第三部だけを映画にしてくれたおかげで、逆にテーマも分かりやすくなって「こんなテンポのいいアクション映画になるんだ」という驚きもありましたね。

ーー 映画のラストはどんな印象でしたか?

映像全般そうですが説明的でないところがよかったです。映画のラストシーンの2人のやりとりは、続編にあたる小説「警官の条件」のテーマを生かしてくれたのかな、と感じました。

最後ベタベタさせずに、会話で終わらせる、いい終わり方だなと。

ーー 大絶賛じゃないですか

はい(笑)。大絶賛ですね。

取材・文・構成 / 小倉靖史
撮影 / 曽我美芽

作品情報
映画『警官の血』

警官殺害事件の裏で糸を引く人物として浮上した、広域捜査隊のエース刑事パク・ガンユン。出処不明の莫大な後援金を受け、裏社会に精通しながら違法捜査を繰り返していた。彼を内偵調査するのは、警官の父を持つ新人刑事チェ・ミンジェ。2人は新種の麻薬捜査をするも、捜査費が足りず、ガンユンは遂に警官として越えてはならない一線を越えてしまい‥‥警察内部の秘密組織とその裏に隠された不正行為、そして、殉職した父の真相。警察組織の闇に触れるとき、予想を裏切る展開が待ち受ける。

監督:イ・ギュマン

原作:佐々木譲『警官の血』(新潮文庫刊)

出演:チョ・ジヌン、チェ・ウシク、パク・ヒスン、クォン・ユル、パク・ミョンフン

配給:クロックワークス

© 2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & LEEYANG FILM. All Rights Reserved.

公開中

公式サイト klockworx-asia.com/policeman