言葉や国境を超えてできること
ーー 脚本はご覧になりましたか?
最終稿まで4稿あったと思いますが、改定のシナリオが出来るたびに送ってくれました。たしか最終稿には、もう絵コンテがついていましたね。
こっちはもうシノプシスの段階で、映像化して構いませんよ、と言っているわけだし、そこまで送ってくれなくても良いのにと思ったのだけれど、「これでやります」というところまできちんと送ってくれたので、期待が高まりました。
ーー 実際に撮影現場に足を運ばれたと伺いました。
はい。クランクインにあわせて韓国へ行くことを楽しみにしていました。2019年のクリスマスが過ぎて暮の押し迫ったころに伺いました。
ーー 考えたらギリギリですね。ちょっと遅れたら行けなかったかもしれませんね。
そうなんですよ(笑)。翌月にはコロナが蔓延し始めますからね。
ーー 現地には何日間滞在されたんですか?
二晩ですね。夜、ソウルのカンナムにある美容整形外科を借りての撮影でした。そこで、イ・ギュマン監督、チョ・ジヌンさんと対談をして、記念撮影や食事をしました。
ーー それぞれ、どんなお話をされたんですか?
イ・ギュマン監督の作品で、ジャーナリストの職業倫理をテーマにした『カエル少年失踪殺人事件』(2011)があります。この作品を観ていたので、「監督は職業倫理に関心があって『警官の血』の映画化に興味をもったんでしょうね」という確認をしたら、「それは意識していなかった」と言われました(笑)。
ーー チョ・ジヌンさんとはどんなお話をされましたか?
2019年ごろは日韓はあまりいい関係ではなかったんですよ。そんななか、「政治的な問題とは別にクリエイター同士がやれることはいっぱいある。そのひとつが映画。言語の壁、国境の壁を超えた映画化なんだ」とチョ・ジヌンさんが強くおっしゃっていました。そのことに「私も100%同意します」とお伝えしました。
ーー 韓国の撮影現場の印象はいかがでしたか?
若いスタッフが多かったですね。とても和やかで、雰囲気がギスギスしていませんでした。
そうそう、スタッフのみなさんが飲んでいる、コーヒーの紙コップに”チェ・ウシク”って書いてあるんですよ。「これはどういう意味ですか?」と聞いたら、韓国では、主演俳優がコーヒーを差し入れる習慣があるらしく、その際、差し入れた人の名前が書いてある紙コップをつくるらしいです。
ーー そうなんですね。てっきり自分用の紙コップの目印かと思いました。
そうではなくて、スタッフ全員に紙コップとたくさんのコーヒーが人数分用意されてるんだと思います。そういうエピソードを聞いただけでも「いい雰囲気の現場だな」って思いましたね。
そのことを、翻訳版のコーディネーターの方に伝えたら、韓国は映画産業に関しての法律が色々変わってきたようなんですね。例えば、残業代はきちんとでるとか、時給が上がったとかね。
韓国は政策として、映画産業をきちっと育てていく姿勢になっていて、スタッフの収入、労働条件にも反映されている。そのおかげで、制作の場に若い人たちも来るようになっているんだと聞いて、さらに、いいなぁと思いましたね。
ーー いいですね。クリエイティブなことに対して、きちんとされたシステムが構築されているところが。
最初に感じた「いい雰囲気の現場だな」というのは、それが反映されていたからかもしれないですよね。