Jan 12, 2020 interview

「日本の神話にも通ずるものがあると感じた」―森山未來が語る『オルジャスの白い馬』

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人類と自身のルーツを知ること

──俳優やダンサーとして影響を受けた本や映画などを教えてください。

最近『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』という本を読んでいるのですがすごくおもしろいです。石器時代、もしくはそれ以前から21世紀までの人類の歴史が書かれていて、ホモ・サピエンスに進化した時からどうやって文明を築いてきたのかを解明していたり、人類が発明してきたものの恩恵と代償なんかも書かれています。国とか関係なく人類としてのルーツを知ることができますし、一般的に言われる“人類”とはどのようにして生まれたのか、そして生まれたことによって僕らはいまどうなっているのかということが客観的に書かれているのでとても興味深いです。宗教や政治、経済などいろんなことを俯瞰視できるのもいいなと思って。いま下巻の途中なんですけど、めちゃくちゃおもしろいですよ。

──表現者として、そういったことを知ることで新しい表現方法が生まれるかもしれないですね。

この本が直接的に僕の表現に影響するかどうかはわかりませんが、とにかく物事に対する関わり方が変わっていっているような気がします。資本主義社会やそれぞれの思想、そして宗教といったさまざまなことをいままでとは違う角度で見たり感じたりできるようになりました。

──昨年、某インタビューの中で室町時代の能役者であり能作者の世阿弥の本を読んでいるとお話されていましたが、それこそ日本伝統芸能である能を知ることは日本の芸能のルーツを知ることにも繋がりそうですね。

日本という島の中だけで生きていると、西洋や欧米からの影響を強く受けていることを意識的に自覚する機会はあまりありませんよね。僕は以前はそうでした。現在、僕がさまざまな場所でパフォーマンスをしている時に感じるのは、他国の文化を享受して巧みに編纂されたものを無意識的に根底において鑑賞するお客さんと、そういった文化をパフォーマンスを通して体系的に理解しようと試みるお客さんの楽しみ方の違いです。後者の観客に、「どうしてあなたはそれを踊っているの?」と聞かれたら説明ができなければいけない。そういった経験を通して、自分自身の身体の中に蓄積された文化や歴史みたいなものをもっと知りたくなった。そうなってくると、僕のルーツはやはり日本なので、それを知るためにも世阿弥の本を読んだりしていました。映画を作るために映画のことだけ勉強したらいいということではないのと一緒で、ルーツから立ち上がる身体のこと、さらにはもっと深くいろんなことを知っていけたらと思っています。

取材・文/奥村百恵
撮影/大川晋児
ヘアメイク/須賀元子
スタイリスト/杉山まゆみ

プロフィール
森山未來(もりやま・みらい)

1984年生まれ、兵庫県出身。幼少時よりジャズダンス、タップダンス、クラシカルバレエ、ストリートダンスなどを学ぶ。1999年、宮本亜門演出の『BOYS TIME』で本格的に舞台デビュー。以降、演劇、映像、パフォーミングアーツなどのカテゴライズに縛られない表現者として活躍している。主な映画の出演作は『世界の中心で、愛を叫ぶ』(04年)、『その街のこども 劇場版』(10年)、『モテキ』(11年)、『セイジ -陸の魚-』『苦役列車』『北のカナリアたち』(12年)、『人類資金』(13年)、『怒り』(16年)、『サムライマラソン』『“隠れビッチ”やってました』(19年)など。

公開情報
『オルジャスの白い馬』

夏の牧草地、草の匂いが混じった乾いた風、馬のいななく声。広大な空に抱かれた草原の小さな家に、少年オルジャスは家族とともに住んでいる。ある日、馬飼いの父親が、市場に行ったきり戻らない。雷鳴が轟く夕刻に警察が母を呼び出す。不穏な空気とともに一家の日常は急展開を迎える。時を同じくして、一人の男が家を訪ねてくる…。
監督・脚本:竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ
出演:森山未來、サマル・イェスリャーモワ、マディ・メナイダロフ、ドゥリガ・アクモルダ
配給:エイベックス・ピクチャーズ
配給協力:プレイタイム
2020年1月18日(土)公開
©『オルジャスの白い馬』製作委員会
公式サイト:orjas.net