初めて制作者を意識した映画、衝撃を受けた名優
――お2人のルーツになった作品や影響を受けた作品を聞かせてください。
武 うーん、何だろうなぁ…。他にもいろいろあるとは思いますけど、俺は井筒(和幸)さんの『ガキ帝国』(81年)かなぁ。当時、学校をサボって観に行ったんですよ。不良の話だと思ってたんだけど、自分の周りにいるような奴らが出ているような映画で、「え?」ってびっくりして。こういう作品も映画なんだって意識して、作ったのは誰だろうって調べたら井筒監督で。そのあと、(井筒監督と)一緒に仕事することになるんですけど(笑)。「こんな大人はイヤだな」と思ったり、「こんな映画観なきゃよかったな」と思ったり、ショックというか複雑なことを思いました。
――その時、初めて監督という職業を意識したんですか?
武 誰が作っているんだろうということを気にしたのは初めてだったかもしれないですね。だからこそそういう人と仕事したりもしたんでしょうし。何か影響されているんじゃないかと聞かれたら、そう思います。
――それで監督を志したとか?
武 いや、監督なんて一度も志したことないですよ(笑)。
山田 ふははははは。
武 いまは志そうと思って、ちゃんとしなきゃいけないと思ってますけど。なれるものだと思わなかったですもん。こんな恐ろしい世界で監督と称される人たちは、みんなすごい人たちばっかりだったから。これから監督と呼ばれるように一生懸命やりますけど。
山田 僕はたぶん『レオン』(94年)のスタンスフィールド(ゲイリー・オールドマン)。16歳くらいの時に観たんですけど、こんなに惹きつける芝居をする人がいるのかという衝撃がありました。作品もワクワクしましたし。いま、ずっと遡って考えたらそこなのかなぁと思います。その当時の僕は芸能界には入っていて、一応お芝居の経験が少しあるくらいでしたけど、あのゲイリー・オールドマン、かっこいいじゃないですか。色気。ヤバさ。すだれを分けて入ってくるシーンとか、ドラッグを飲んでテンション上げて。
武 あれは一体、何を飲んでるんだっていうね(笑)。素敵だよね。
山田 やっぱりみんなあのゲイリーに一度は憧れますよね。あと『トレインスポッティング』(96年)のロバート・カーライルが演じたベグビーとか。あの人も狂った人を演じさせたら一級品ですけど。
武 性格の悪い役どころとかうまくて、イヤなヤツだよねって思わせられる(笑)。
山田 僕が初めてやったミュージカルが『フル・モンティ』(14年)で、その時はブロードウェイ版を日本版にしたんですけど、やっぱりロバート・カーライルが(映画で)やった役っていうだけですごくうれしくて。楽屋には映画の『フル・モンティ』(97年)の写真をプリントアウトして貼りまくってましたね。
――狂気を感じる俳優さんに惹かれるんですね。
山田 だって『ダークナイト』(08年)のジョーカーはみんなが惹かれたじゃないですか。やっぱりドーンと来ますよね。
武 次の『ジョーカー』も楽しみだよね。日本版なら山田さんがやったら絶対いいなって思う。
山田 『全裸監督』もある意味、日本版ジョーカーかもしれませんね。
武 確かにそうだね。
取材・文/熊谷真由子
撮影/三橋優美子
1967年生まれ、愛知県出身。工藤栄一、崔洋一、井筒和幸、本広克行、中島哲也らの監督のもとで助監督を務め、2007年の『ボーイ・ミーツ・プサン』で監督デビュー。2014年の『百円の恋』で、安藤サクラに日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をもたらすなど数々の賞を受賞し、注目を集める。その他の監督作に、『カフェ・ソウル』(09年)、『EDEN』(12年)、『イン・ザ・ヒーロー』(14年)、『リングサイド・ストーリー』(17年)、『嘘八百』『銃』(18年)、『きばいやんせ!私』(19年)などがある。
1983年生まれ、鹿児島県出身。1999年に俳優デビュー。『WATER BOYS』(03年)でドラマ初主演、映画『電車男』(05年)で映画初主演を果たす。主な映画出演作に、『クローズZERO』(07・09年)、『闇金ウシジマくん』シリーズ(12~16年)、『凶悪』(13年)、『映画 山田孝之3D』(17年)、『50回目のファーストキス』(18年)、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(19年/声の出演)など多数。俳優業のほか、『デイアンドナイト』(19年)のプロデュースや、バンド“THE XXXXXX”での活動などマルチに活躍している。
会社は倒産、妻に浮気され絶望のどん底にいた村西(山田孝之)はアダルトビデオに勝機を見出し、仲間のトシ(満島真之介)、川田(玉山鉄二)らとともにアダルト業界に殴り込む。一躍、業界の風雲児となるが、商売敵の妨害で絶体絶命の窮地に立たされる村西たち。そこへ、厳格な母のもとで本来の自分を押し込めていた女子大生の恵美(森田望智)が現れる。2人の運命的な出会いは、社会の常識を根底からひっくり返していくのだった――。
総監督:武正晴
監督:河合勇人 内田英治
脚本:山田能龍 内田英治 仁志光佑 山田佳奈
出演:山田孝之 満島真之介 森田望智 柄本時生 伊藤沙莉 冨手麻妙 後藤剛範 ・ 吉田鋼太郎 板尾創路 余貴美子 / 小雪 國村隼 / 玉山鉄二 リリー・フランキー 石橋凌
原作:本橋信宏『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)
Netflixにて全世界独占配信中
公式サイト:https://www.netflix.com/jp/title/80239462