Oct 07, 2016 interview

映画『永い言い訳』西川美和監督、ミュージシャン・竹原ピストル対談

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子役のフリースタイル演技が竹原を恐怖のどん底に…!?

 

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西川 私、竹原さんに演出、細かくしましたっけ?

竹原 こっちから聞くことは多々ありましたけど、すごくわかりやすかったです。「今、こういう気持ちでやったと思うんですけど、今度はこういう気持ちでやってみたらどうでしょう?」とか、具体的に言ってくださって。印象に残っているのは、あるセリフを、自分的にはすんなり言えたつもりだったんですけど、カットがかかって、「今のセリフはちょっと言いずらそうだったんですけど、普段使わない言葉ですか?」と見抜いてくださって、「何て言いたくなりました?」って、こっちに委ねてくださったことですね。嬉しかったし、すごいなって。

西川 でも基本、あまり竹原さん、今のは違うということはなかったですよ。最初はこういうふうに演じてくださいということは言わず、テストでまずやってもらって、修正点があれば動きやセリフの言い回しを直していくんですが、竹原さんはあまり言うことがなかったです。

竹原 そうでしたか。

西川 竹原さん、すごく不安がっておられたので、何度でも本読みをやりたいとおっしゃって、本読みもやりましたよね。

竹原 そうです、やってほしくて(笑)。

西川 そこで、竹原さんが自分が考えていたより、もっと陽一は単純でという話をされていましたよね。「ここまで(単純)ッスか」と何回か言われましたよね。すごく悲しそうにしていたかと思ったら、パッと機嫌が戻ったり、屈託なかったりするのが、竹原さんが最初考えていた方がもう少し慎重でした。だからここはポンとはねて、また戻ってきてみたいな話をしたと思います。

竹原 そうですね。ありがたかったです。やっぱり根本的に自信がなかったんですね。だからとりあえず、本読みやリハーサルをやらせてもらって。でも、実はクランクイン前のそういったやり取りって、恥ずかしいし照れくさいですよね。衣装も何も着ていない状態で、近い距離でブチ切れて果物を投げるとか。

西川 そうですよねえ。

竹原 だから、そこで強烈な予防接種じゃないですけど、全力でやって免疫をつけて、監督に良しとしてもらってから安心してクランクインしたかったというか。安心感が欲しかったんですね。

 

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──お子さんとの家族像もとても自然で素敵でした。

西川 竹原さんは子どものオーディションもずっと付き合ってくれていたんです。

竹原 緊張しました(笑)。子役のオーディションでは、エチュードというんですか、ある設定が決まっていて、その中で自由に芝居をするっていう。

西川 そうですそうです。コンビニに兄と妹で買い物に行くという設定で。

竹原 その設定で子役の子たちが見事に演じているのが、俺はもうすごい脅威で。

西川 あははは(笑)。

竹原 「こういう設定なので子どもたちと自由に演じてください、用意スタート」みたいな感じでやられたら、俺はできないなと思って。これはクランクインする前に断らないと迷惑かけてしまう、ヤバい!と焦ったんです。だから、子役オーディションを見ながら、俺の方がダメだったら、無理ですって降りるくらいの覚悟でした(笑)。例えば、エチュードでお芝居していた時に俺の言葉に対して、監督が「陽一にはその語彙力はないので変えてください」とか言われたとしたら、頭が真っ白になって何もできなかったと思うんです。

西川 そうですか?(笑)

竹原 あーちゃん役(=妹の灯)の(白鳥)玉季ちゃんは、決められたセリフもちゃんと言える、すごくお芝居ができる子ですが、基本、フリースタイルなんですよ。だから、あーちゃんに話しかけたりする時、俺だったらこう言うけど、陽一だったらどう言うかと考えると詰まってしまう。あーちゃんの反応の新鮮さを損なうしくじり方を何度かしたなという記憶があります。

 

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西川 そうは思わなかったですよ?

竹原 でも即興性に乏しいのは確かなんですよ。だからあーちゃん、頼むから俺じゃなくて、本木さんに振ってくれよ~って思ったり(笑)。

西川 初耳!(笑)

竹原 実は団地の敷地内で遊ぶシーンや海に行くシーンが一番緊張していたんですよ。

西川 え~!(笑)

竹原 海で4人で自由に遊んできてくださいとか、公園で遊んできてくださいというシーンでは、「早くカットかかって~!」「あーちゃん、近寄って来ないで~! 本木さんとこ行って~!」って、心の中でずっと思っていました。

西川 あははははは(爆笑)。本当に?! そうだったんですねえ。カメラが近づくと、本木さんは動線に火がついて自意識爆弾が膨らんで、カチカチに作った幸夫くんになっていくんです。でも竹原さんはカメラがどこを向いているかわかっていないんじゃないかというくらい、いつどんな距離感で撮っても自然で、なんでこんなに自由でいられるのかしらと、私は思っていましたよ。

竹原 それはやっぱりよくわかっていなかったというのがあるんだと思います。どこから撮ってるから、今、どのように自分が映ってるとか、監督はどんなところを撮りたいのかなというのを知るよしがなくて。無知がゆえの自然ということだと思います。

西川 そうなんですね~。

竹原 それにしても玉季ちゃんは本当に脅威でした(笑)。

──最後になりますが、「otoCoto」は電子書籍も扱うエンタメ情報サイトなので、最近読んだ本やおススメの1冊を挙げていただけますか?

竹原 僕はそれこそ、西川美和著『その日東京駅五時二十五分発』を最近読みました。きっかけはやはり、監督の作品に使っていただき、原作本もすごく面白かったので、他の作品にも触れたいと思い、旅先で読みました。とても良かったです。

西川 そんなふうに言っていただいて嬉しいです。私は太宰治の『お伽草紙』の中の『浦島さん』という一編がずっと好きです。あと、同じく太宰の『パンドラの匣』の中に入っている『正義と微笑』という中編小説があるんですが、主人公の少年が16歳の誕生日に、今日から僕は日記をつけようと思うというところから始まる日記形式で書かれた作品です。少年らしい理想に燃えて夢を膨らませつつ、日々、自分に失望し、いろいろなものに対して敏感に反発しながら――でもそう言っている自分が一番くだらなく、くじけながら、2年くらいの年月を経るという話です。おそらく太宰自身はそんなに長い時間をかけて書いていないはずなんですが、16歳の初めと18歳の最後の方の日記とでは、明らかに文体も変わっていて、微かな成長が見られるんですよ。『永い言い訳』で言うと、お兄ちゃんの真ちゃん(陽一の長男)が、最後は微かだけど成長して、男の子から男になっているというような。

竹原 ああ、わかります。

西川 『正義と微笑』は目に見えない文学なのに、この少年は身長まで伸びたんじゃないかというような成長を文章の中で感じさせてくれていることに感動したんですよね。昭和20年代に書かれたものなのに、今読んでもストレートにわかるくらい、滑稽でほろ苦い。とにかく10代の男の子のバカさ加減が笑えるんです。理想に燃えつつもバカバカしい面がフレッシュに書かれていて。それに、これは私自身も目指しているところなんですけど、読む人の読み解く力を尊重して信じて書いているんだなというのを感じました。いろいろなものに触れていくとこちらの感度も鈍くなっていくものですけど、原点回帰して最近、読んで、改めて太宰の傑作だと思いました。

竹原 読んでみたくなりました!

 

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取材・文/熊谷真由子
撮影/吉井明

 

Profile

 

西川 美和(にしかわ・みわ)

1974年7月8日生まれ。広島県出身。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(99)にスタッフとして参加し、以後、助監督経験を経て、2002年、『蛇イチゴ』で監督デビュー。『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『夢売るふたり』(12)など、発表する作品は常に話題に。小説・エッセイの執筆も手掛け、『ゆれる』のノベライズで三島由紀夫賞候補、『ディア・ドクター』のアナザーストーリー『きのうの神様』と、『永い言い訳』で共に直木賞候補になっている。

 

竹原 ピストル(たけはら・ぴすとる)

1976年12月27日生まれ。千葉県出身。99年、フォークロックバンド野狐禅(やこぜん)を結成、03年にはメジャーデビューを果たすが、09年に解散。15年にアルバム『youth』をリリースし、現在は112本にもわたる引き語りの全国ツアー中。役者としては『青春☆金属バット』(06)で初主演を飾った他、『海炭市叙景』(10)、『さや侍』(11)などに出演、独特の存在感を見せている。大学時代はボクシング部の主将を務め、全日本選手権への出場経験もあり。

 


 

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映画『永い言い訳』

突然、家族を失った時、人はどうするのか――。これまで一貫して脚本・監督を兼任してオリジナル作品を生んできた西川美和監督が、東日本大震災をきっかけに描いたという最新作。不慮の事故で妻を亡くしたものの、まったく泣くことができないタレント作家・衣笠幸夫が、同じ事故の遺族・大宮陽一と残された幼い子どもふたりと共に過ごす中で、他者と共に生きることの難しさと、何にも代えがたい歓びに気づいていく姿を丹念に追っていく。表面ばかりを取り繕い、歪んだ自意識にまみれた幸夫と、まるで野生動物のように直情型で無骨な陽一という正反対の男ふたりが、それぞれの方法で喪失感と悲しみに向き合い、再生していく様子が胸に迫る。幸夫を演じた本木、陽一役の竹原、ふたりの子役たちの演技が素晴らしく、彼らが疑似家族を形成していく描写は繊細さとぎこちなさ、愛おしさに溢れていて特に印象に残る。これまでの西川作品でもそうであったように、明らかなダメ男である幸夫でも、決して断罪することはない。これぞ人間の本質を時に冷静に、時に温かく見つめる西川監督の真骨頂。監督自身が自らの集大成と語っているのも納得の、力作にして傑作だ。

原作・監督・脚本:西川美和
企画協力:是枝裕和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、
白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、
山田真歩、深津絵里 他
配給:アスミック・エース
10月14日(金)より全国ロードショー
(c)2016 「永い言い訳」製作委員会

公式サイト
http://nagai-iiwake.com/

 

 

原作『永い言い訳』西川美和/文藝春秋

映画に先駆けて西川美和監督自身が執筆した小説で、2015年、文芸春秋社より刊行。突然のバス事故で妻を亡くした作家・衣笠幸夫を中心に、突然愛する家族を失った者やその周囲の人間など複数の視点から、幸福と再生、そして他者との関わりの複雑さとかけがえのなさを綴る。第153回直木賞候補、2016年本屋大賞候補になった。

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関連書籍はこちら

 

『その日東京駅五時二十五分発』 西川美和/新潮社

広島県出身の西川美和監督が伯父の体験を基に“あの戦争”について描いた入魂の中編小説。終戦の日の朝、19歳のぼくが東京から故郷の広島へ汽車で戻る道中、さまざまなことに想いを巡らせていく。第一線である戦場の過酷さからは程遠く、故郷が見舞われた8月6日の悲劇からも断絶された通信兵のぼくの戦争体験とは――。

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『正義と微笑』 太宰治/新潮社『パンドラの匣』収録

染谷将太主演で映画化もされた表題作『パンドラの匣』に収録された中編小説。将来に大いなる夢と希望を抱いていた16歳の進が主人公。じきにやってくる受験を控え、進学か就職かを悩み揺れる彼の心情を中心に、思春期の少年の内面を日記形式でヴィヴィッドに記す。太宰治が友人の日記を基に執筆した作品。

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