Jun 01, 2017 interview

綾野剛の筋肉と村上虹郎のキラキラ感に圧倒される至高の剣道映画『武曲 MUKOKU』対談

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浅野忠信と二階堂ふみが共演した『私の男』(14年)では近親相姦というセックスタブーを真正面から描き、大反響を呼んだ熊切和嘉監督。最新作『武曲 MUKOKU』では親殺しというシリアスなテーマに向き合っている。そして、この重くなりがちな物語に明るい躍動感を与えているのが、『2つ目の窓』(14年)でのデビュー以降、成長目覚ましい若手俳優の村上虹郎だ。ハードさと軽やかさが巧みにブレンドされた本作の舞台裏を、熊切監督と村上虹郎に語ってもらった。

 

──藤沢周原作の『武曲 MUKOKU』は剣道ひと筋で生きてきた主人公・矢田部研吾(綾野剛)が実の父親(小林薫)と木刀で決闘し、植物人間にしてしまったというヘビィな内容。桜庭一樹原作の『私の男』もそうでしたが、熊切監督は安易には描けない、危ないテーマを映画にしている印象があります。

熊切 危ないテーマだからという理由で、『武曲』を映画化したわけじゃありません(笑)。もちろん、『武曲』には親殺しというテーマがあり、そのことに興味はありました。自分も若い頃は父子の確執というものを身近に感じていましたし、ドラマとしての面白さに興味を感じて、引き受けたんです。プロデューサーから藤沢さんの小説『武曲』を勧められたのは、フランス留学から日本に帰国した直後でした。留学中はバスター・キートンの特集上映をパリのシネマテークでずっと観ていたこともあって、肉体で表現する映画を撮りたいと思っていたんです。キートンの映画って、体を張ったアクションものが多いじゃないですか。台詞よりも俳優の肉体そのもので物語るような作品が撮りたくて、剣道を題材にしている藤沢さんの『武曲』なら存分にやれるなと思ったんです。

 

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──『私の男』では二階堂ふみを本物の流氷の上へと追い詰めていった熊切監督ですが、『武曲』では剣道対決で男優陣を追い詰めることに。

村上 『私の男』の流氷シーンは凄かった! 鎌倉を舞台にした『武曲』ではそんな大自然に追い詰められたわけじゃないですけど、僕もかなり追い詰められましたね。

熊切 追い詰めようと思って、追い詰めたわけじゃないよ(笑)。

村上 精神的には追い詰められました。でも、逆に解放もされたんです。撮影そのものは大変だったけど、演じててすごく気持ちよかった。

熊切 それは僕もそう。撮っていても、すごく気持ちよかったからね。

 

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──村上さんが演じた羽田融は、水害で一度死にかけながらも生還を果たした高校生。生きるか死ぬかのギリギリの世界に惹かれている複雑なキャラクターですが、どのようにして役にアプローチを?

村上 僕自身が持っている一部分を肥大化させていった感じですね。脚本に書かれているイメージを忠実に演じたつもりです。映画の予告編で「死に魅せられた少年」と謳われていますけど、それは間違いないと思います。「融には、何があったんだろう」と熊切監督とは撮影に入る前に話し合いました。母子家庭なんだろうと話し合いましたが、撮影に入ってからはそれほど話すこともなく進んでいきました。

熊切 彼に会った瞬間に、融というキャラクターが具体的に見えてきたんです。剣道の稽古をしている様子もそうでしたが、今も生意気そうでしょ(笑)。

村上 ははは。

熊切 彼のよさは、あっけらかんとしているところ。融の一度死にそうになったという過去を乗り越えていく生命力みたいなものが彼にも感じられたので、後はもう彼を伸び伸びと活かすことだけを考えましたね。

村上 細かいことがあまり気にならないんです、融って。生きるか死ぬかという重い問題を体験しているから、小さいことには悩まない。だから、高校では同級生たちとは話が合わなくて、友達がいないと思います。

 

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