葛藤する究極の選択
ーー作品全体を通して、撮影時や本編のシーンでも、個人的に一番印象深いところはどこですか?
吉岡:やっぱり映画版オリジナルのラストシーンですね。アニメ版もラストシーンがオリジナルでしたが、漫画ではまだ描かれていないシーンに対して、実写チームなりに、ベストを尽くそうということで、絶景のロケーションを見つけてきてくださいました。映画版は鯨井令子が主人公っぽく見えるかもしれないですけど、工藤の目線で描かれている工藤の物語としての側面もあります。ラストシーンは、それがすごく出ているし、工藤の最後の選択がとっても美しく表現できているかなと思います。
水上:吉岡さんが演じた“鯨井令子“は大変難しい役で、誰が演じても難しい役だったと思います。僕も実年齢よりかなり年上の役で、大切な人を失った経験がない人間が演じる高い壁がありました。葛藤や悩みを、お互いに相談し合うことはなかったんですけど、撮影現場で、お互いもがき苦しんでいる姿を、その都度その都度いろんなシーンで積み重ねていった。断片的にですけど、そんな場面がいっぱいありました。なので、どこのシーンというより、お互いが作品を通してずっと戦い続けていたっていうことが一番印象深いですね。
ーー漫画、アニメ、映画といろんな見方がありますが、この『九龍ジェネリックロマンス』という作品自体の魅力をどういうところに感じていますか?
水上:原作の眉月先生に「違います」って言われるかもしれないですけど、人に救ってほしい、人を救ってあげたいと思うけれど、どこか救い上げられない。求め続けられないけれど、求め続けてしまう。そんな人の思いや葛藤が、この作品の魅力だと受け取りました。僕自身、人は永遠に孤独だと思っていますが、それでも孤独の中で求め合いたいとも感じるので、そのニュアンスを大事にしながら演じていました。叶うことのない願いなのか、永遠の呪いのようなことなのか、わからないですけど、そこがすごく好きで、今回オファーをいただいた時に、出演したいと思った要因でもありました。
吉岡:ミステリー・ラブロマンスという、ミステリーと究極の愛の選択という設定が混ざっているのが、この作品の魅力だと思います。ただの恋愛ものというだけでなく、街の不思議な懐かしさや謎めいた感じに引き込まれていく不思議な感覚も味わえる。恋愛面で”愛する人のことが本当に分かったとき、その人が消えてしまう”という究極の選択を迫られるシチュエーションは、アニメや映画だからできる恋愛描写です。これから、映画をご覧になっていただく皆さんには、グッと切なくなってもらえたらいいなと思っています。

取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 藤本礼奈

懐かしさ溢れる街・九龍城砦の不動産屋で働く鯨井令子は先輩社員の工藤発に恋をしていた。工藤は九龍の街を知り尽くしており、令子をお気に入りの場所に連れ出してくれるが、距離は縮まらないまま。それでも令子は、九龍で靴屋を営む楊明、あらゆる店でバイトをする小黒らといった大切な友達もでき、九龍で流れる日常に満足していた。しかしある日、工藤と立ち寄った金魚茶館の店員タオ・グエンに工藤の恋人と間違われる。さらに、令子が偶然みつけた1枚の写真には、工藤と一緒に自分と同じ姿をした恋人が写っていた。
監督:池田千尋
原作:「九龍ジェネリックロマンス」眉月じゅん(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
出演:吉岡里帆、水上恒司、栁俊太郎、梅澤美波(乃木坂46)、曾少宗、花瀬琴音、諏訪太朗、三島ゆたか、サヘル・ローズ、関口メンディー、山中崇、嶋田久作、竜星涼
配給:バンダイナムコフィルムワークス
©眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
2025年8月29日(金) 全国ロードショー
公式サイト kowloongr