Dec 10, 2019 interview

周防正行が『カツベン!』で新たに発見した創成期の映画が持っていたダイナミズム

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対照的な弁士を演じた成田凌と高良健吾

――新人弁士・染谷俊太郎を演じた成田凌は映画初主演。キャスティングはどのようにして決まったんでしょうか。やはり声が決め手ですか?

成田さんはオーディションで決めたんですが、声はそれほど重視していませんでした。あまりに聞き取りにくい声だとか、よほど滑舌が悪くなければ、大丈夫だろうと思っていたんです。というのも、僕の映画は役者さんが訓練して、役に取り組む作品が多いんです。『ファンシイダンス』(89年)では本木雅弘さんにお坊さんの所作を学んでもらいましたし、『シコふんじゃった。』(91年)ではやはり本木さんたちに学生相撲の稽古に通ってもらいました。『Shall we ダンス?』では役所広司さんたちに社交ダンスの練習を積んでもらいました。役者さんたちは、見事にやり切ってくれた。それもあって、僕は役者のみなさんを信頼するようになったんです。

今回のオーディションは声より雰囲気重視で決めています。オーディションに残った若い役者のみなさんは、おもしろくて演技力も充分にありました。その中で成田さんは、初々しさがあって、僕の好きなタイプの青年だったということです。

――ライバル弁士・茂木貴之は、演技力に定評のある高良健吾。

妻の草刈民代から、「すごく真面目で熱心な俳優」と聞いていました。草刈は高良さんと共演した際に、「歩き方を教えてほしい」と頼まれたり、身体の使い方についていろいろ聞かれたようです。そのことを聞いて、弁士役にも真剣に取り組んでくれるだろうなと思いました。それに高良さんの整った顔立ちは、成田さんとは対照的な硬派な二枚目で役にぴったり。それで、お涙ちょうだいものを語らせたら右に出るものはいないという売れっ子弁士を演じてもらうことにしたんです。

――二人のそれぞれ異なる活弁が物語を盛り上げます。活弁シーンの演出はどのようにされたんでしょうか?

僕からは何もしていません。成田さん、高良さんにはそれぞれ別々の現役弁士に指導してもらい、タイプの異なる弁士になってもらいました。指導者のお一人はお笑いの世界でも高い評価を得ている、天才肌の坂本頼光さん。もうお一人は活動弁士の第一人者・澤登翠さんの一番弟子であり、映画史にも造詣が深い片岡一郎さん。頼光さんには成田さん、片岡さんには高良さんを指導してもらいました。なぜ二人の弁士に頼んだかというと、一人の弁士に二人を指導してもらうと、どこか似てきてしまうからです。日本の伝統芸能は、もともと師匠から弟子へと一対一で伝えていくもの。師匠のマネをすることが、一番の勉強なんです。なので、今回は頼光さんと片岡さんにはそれぞれどんな弁士に育ててほしいかを伝え、僕からは口を出さないようにしたんです。活弁を学ぶための環境を整えるのが、僕の仕事でした。成田さんも、高良さんも、見事に僕の期待に応えてくれました。