Oct 24, 2017 interview

クズ人間たちが織り成す、痛すぎる恋愛劇!『かの鳥』の舞台裏を白石和彌監督が語った

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白石監督、念願の企画を語る

 

──「otoCoto」ではクリエイターのみなさんに愛読書や読書遍歴について尋ねています。犯罪映画のイメージの強い白石監督の愛読書は?

子どもの頃から本が読むのが好きで、最近こそ忙しくてあまり読めなくなってきていますが、今でも寝る前には本を読んでいますね。いちばん最初に読んだ本は覚えていませんが、小学校5年のときに学校の図書室にあった本はほぼ読み終えた記憶があります。中学生のときには、母親が買って自宅に並んでいた吉川英治の「宮本武蔵」を読破しました。これは衝撃的でした。大長編活劇なんですが、途中で武蔵が人を殺したくてしようがない衝動に駆られるようになるんです。「マジかよ」と思いながら読んだ記憶がありますね。「宮本武蔵」がきっかけで、時代小説をよく読むようになりました。

──白石監督が時代劇を撮ったら、容赦ない殺陣シーンの連続になりそうですね。

本当に時代劇は撮りたいんです。「凶悪」で映画賞をいろいろもらって「次はどんな作品を?」と訊かれると「時代劇、やりたいです」と答えていたんですが、まだオファーはありません(苦笑)。なので、いろんな方にとにかく時代劇をやりたいと、アピールしています。先日、役所広司さん主演作「孤狼の血」を完成させたところなので、役所さん主演で時代劇とか撮れたら最高だろうな。

──映画監督にとっては新作を撮ることが、次の作品の営業活動にもなるわけですね。

それはありますね。僕にとって「凶悪」は、映画監督・白石和彌の名前を多くの方に知って貰えた孝行息子みたいな作品なんです。今回の『かの鳥』も僕にとって重要な作品になることは間違いありません。息子って感じじゃないので、よくできた娘って感じでしょうか。多分、『かの鳥』を撮ったことで、男臭い映画だけでなく、違う作品も撮れるんだって知ってもらえると思うんです。新しい映画を撮ることで、新しい世界にも出会えるし、新しい人たちとも知り合えることになるんです。

 

 

──公開を間近に控えた『かの鳥』に手応えを感じている白石監督に、最後の質問です。『かの鳥』の衝撃のラストシーンは、白石監督的にはハッピーエンドと解釈してもいい?

僕としては完璧にハッピーエンドのつもりで撮りました。もちろん賛否両論あるシーンだと思いますし、僕も最初に原作を読んだときはどう受け取っていいか難しいラストシーンでした。でも、陣治の究極の愛を目の当たりにして、十和子の人生はこの物語が終わってから大きく変わると思います。『かの鳥』をご覧になった方は驚くと思いますが、きっと忘れられない作品になるはずです。

取材・文 / 長野辰次
撮影 / 名児耶洋

 

 

プロフィール

 

白石和彌(しらいし・かずや)

1974年北海道出身。「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(00年)で長編監督デビュー。茨城県で起きた実在の連続殺人事件をドラマ化した「凶悪」(13年)がロングランヒットし、一躍売れっ子監督に。北海道で起きた道警の汚職事件を描いた「日本で一番悪い奴ら」(16年)、デリヘルに勤める女性たちを主人公にしたロマンポルノ「牝猫たち」(16年)も大きな話題となった。wowowドラマ「人間昆虫記」(11年)やNetflixドラマ「火花」(16年)などの演出も手掛けている。公開待機作に役所広司主演作「孤狼の血」(18年春公開予定)がある。

 

作品紹介

 

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』

見事なほど、登場する人物には誰ひとり感情移入することができない。ヒロインである十和子(蒼井優)は、働きもせずにDVDを見ながらクレームの電話をするだけのダメ女。そんな十和子とラブホテルへ行く妻子持ちのゲス男・水島(松崎桃季)、十和子を利用するだけ利用して姿を消したDV野郎の黒崎(竹野内豊)。そして、十和子のわがままを全て受け入れながら一緒に暮らす陣治(阿部サダヲ)だが、いつもみすぼらし格好で生理的な不快感を周囲に与える冴えないオッサンだ。経済的ではなく、精神的な下流人生を送る彼らの生態をリアルに描いてみせたのは、『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』などの実録犯罪映画での演出が高く評価された白石和彌監督。友達にはなりたくない登場キャラクターたちばかりだが、泥水を啜りながらも生きていく人間のタフさが伝わってくる。少女コミック原作のキラキラ映画に馴染めない人は、ぜひご賞味のほどを。

原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
監督:白石和彌 
出演:蒼井優 阿部サダヲ 松坂桃李/村川絵梨 赤堀雅秋 赤澤ムック 中嶋しゅう /竹野内豊 
配給:クロックワークス R15+ 
(c)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会 2017年10月28日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
公式サイト:http://kanotori.com/

 

原作紹介

 

「彼女がその名を知らない鳥たち」沼田まほかる/幻冬舎

現在公開中の吉高由里子主演映画『ユリゴコロ』の原作者でもある沼田まほかる。主婦、僧侶、会社経営、倒産、そして56歳にして作家デビューと、ユニークな経歴を持つミステリー作家だ。『ユリゴコロ』は真実の愛に触れたことで連続殺人鬼が別人に生まれ変わろうとする犯罪ミステリーだったが、本作も人間のダメな部分を容赦なく描く一方で、人間が善良なものへ生まれ変わることへの希望を感じさせる性善説の物語となっている。ダメ人間こそ、愛の力で救われるべきであるという原作者の宗教観が感じられる異色の恋愛小説だ。

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白石監督の愛読書

 

「宮本武蔵」吉川英治/講談社

関ヶ原の合戦を辛うじて生き延びた若者・武蔵が剣客として腕を磨き、終生のライバル・佐々木小次郎と巌流島で決着をつけるまでを描いた大ロングセラー小説。吉川英治が執筆したのは戦前だが、日本人が現代も抱く剣豪・宮本武蔵のイメージは、この小説によって生み出されたもの。野生児のように育った武蔵は剣の世界で名を上げようとする中、沢庵和尚ら様々な人々と出逢い、人間的に成長していく姿がエネルギッシュに活写されている。井上雄彦の人気コミック『バガボンド』の原作としても有名だ。

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