Oct 24, 2017 interview

クズ人間たちが織り成す、痛すぎる恋愛劇!『かの鳥』の舞台裏を白石和彌監督が語った

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蒼井優が見せた、かつてない官能シーン

 

──十和子と大人の男女の関係になる妻子持ちの水島を演じているのは「ユリゴコロ」にも出演している松坂桃李。十和子と水島とのキスシーンが何ともエロい。

やばいですよね。松坂くんは舞台「娼年」の公演を終えた直後だったこともあって、仕上がり過ぎていました(笑)。僕からも一応は、段取り説明的なことをしましたけど、まぁキスシーンもそうだし、(ベッドシーンも)スッとやってくれましたね。やっぱり本人の持っているポテンシャルが大きいと思いますよ。僕が演出して、どうなるものじゃないですから。蒼井優とのベッドシーンもそんなにリハはしてないです。「あーっと言って」のシーンは本番も含めて3回くらいしかカメラは回してないですね。他のベッドシーンも、ほとんどテイクを重ねずに撮っています。

 

 

──十和子役を演じた蒼井優は、これまでにない官能シーンに挑戦。原作を読んで、覚悟の上での出演だった?

覚悟ってほどでもないと思いますが、彼女も『かの鳥』を素晴らしい作品にしたいという気持ちが強かったはずです。ベッドシーンもあるけど、でもそれだけの映画ではないということは分かってくれていました。今回、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊とタイプの異なる3人の男優を相手に演じているわけですが、三者三様でそれぞれ対応の仕方が違い、また芝居の質も異なっているんです。キャスティングがうまくハマると演出も楽でいいですよ(笑)。

──十和子の元彼・黒崎を演じているのは竹野内豊。あんなに優しい顔をしていながら、とんでもないDV野郎を演じている。

サイコーでしたね(笑)。竹野内さん、これまで暴力を振るような役は、ほとんどなかったそうです。それもあって「どうすればいいですかね」「大丈夫でしょうか」と不安な部分もあったようですが、話し合って人物造形を作りあげました。演技とはいえ、優しい方なので女性に暴力を振るうシーンには抵抗があったようです。もちろん、本番は蒼井さんの顔に当たって怪我などさせないよう万全の注意を払いながら、NGなしで思い切って演じてくれました。いきなり裏拳を繰り出していました。まぁ、僕が決めたんですけど。そのシーンを撮り終わった瞬間に、竹野内さん「暴力はよくない!」と叫んでいましたね(笑)。

 

 

──妻子持ちのゲス男とのSEXも、借金を肩代わりさせようとするDV男の暴力も受け止めてしまう女・十和子。彼女にとっては、どれもコミュニケーションの一種なんですね。白石監督は近くに十和子みたいな女がいたら、どうしますか?

あまりお近づきにはなりたくないですね(笑)。面倒くさいでしょ。男との関係がこじれてしまうのなら、もう少し前にちゃんと話し合えよと思います。でも、話し合いでは済まないから、こんな大変な状況に陥ってしまうんでしょうけど。

──阿部サダヲ演じる陣治は、あるがままの十和子を受け止めようとするけれど、いつも汚れた作業着のままで、ご飯の食べ方もうっとおしい。生理的にどこまで嫌悪感を感じさせる男にするのか、さじ加減には気を遣ったのでは?

そうですね。さじ加減を計りながら撮影するのが難しかったので、考えうることは撮影現場で全部試してみたんです。阿部さんからもアイデアが出るので、阿部さんは決してネイティブの関西人ではないんですが、陣治として味のある関西弁で台詞を足していくことで脚本にはなかった味もどんどん出てきたんです。それを編集作業で削っていき、調整した感じですね。撮影前にきっちり計算できなかったのは、まだまだ僕の修業の足りなさです。編集によって、ずいぶんと雰囲気が変わりました。竹野内さんが演じた黒崎は編集前では、もっともっと酷い男でした。編集して、ほどよい悪い男になったんです(笑)。

 

 

映画には監督の実体験が投影されている

 

──こういう生々しい恋愛ドラマを撮っていると、監督自身の実体験や人生観なども投影されるものですか?

恋愛ドラマだから投影されるということはありませんが、いつも作品作りには、何かしら入ってきますね。十和子のクレーマーぶりも知り合いにそういう感じの人がいて時々観察してましたし、陣治のストーカー気質も、ストーカー被害で悩んでる人の相談に乗ったことがあって、まあ相談の振りしてほとんど取材してたのですが(笑)。そういった日常的な体験があると、映画のシーンもすごく肉感的なものになりますね。

──『かの鳥』に登場するキャラクターの中では一見普通の人っぽく思える十和子の姉・美鈴(赤澤ムック)ですが、専業主婦である彼女もまた心に空虚さを抱えている

抱えていますね。美鈴が最初に現われるシーンは、シングルマザーを支援する会のイベント会場という設定なんです。意識高い系の美鈴は、妹の十和子に「もっと、ちゃんとしなさい」とざっくりしたことを言っているんだけど、じゃあ自分はどうなのよといえば、夫に浮気されている。そういった人間の強さと弱さの両面を描くことで、映画ってディテールが膨らんでいくんです。十和子がベッドの相手をすることになる國枝(中嶋しゅう)もそう。病気を患っているけど、十和子に対する執着心だけはまだエネルギーとして残っている。メインじゃないキャラクターたちにも、かなり気を配ったつもりです。

 

 

──白石監督が撮った『かの鳥』を観ていると、誰もが心に空虚さを抱えながら生きているんだなぁとしみじみ思います。

みんな、そうだと思いますよ。どこの家庭も問題や悩みを抱えながら、お互いに持ちつ持たれつの関係で生きているんじゃないですか。

──売れっ子の白石監督でも、心に空虚さを感じている?

ありますよ(笑)。最近、娘の携帯電話に連絡を入れても、なかなか出てくれることが少なくなった。まあ、携帯を手元に持ってないことが多いだけなんですが(笑)。とはいえ娘は小学生なんですけど塾に通うようになって、すっかり忙しくなってしまった。まだ子どもなのに大変だなぁと。それで先日、娘と一緒にとあるアニメ映画を観に行ったんです。僕にはオリジナリティーの感じられない退屈な映画に思えたんですが、娘は「超面白かった!」と言っていたんです。いろいろと気持ちを共有できないと、心にちょっとした空虚さを感じてしまいましたね。(苦笑)。