Oct 24, 2017 interview

クズ人間たちが織り成す、痛すぎる恋愛劇!『かの鳥』の舞台裏を白石和彌監督が語った

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蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、ら人気&実力派キャストが出演する『彼女がその名を知らない鳥たち』(以下、『かの鳥』)は、登場キャラクター全員がクズ人間ばかりなことで話題を呼んでいる。現在公開中の「ユリゴコロ」の原作者でもある沼田まほかるの同名小説を映画化したのは、実録犯罪映画「凶悪」(13年)や「日本で一番悪い奴ら」(16年)でメキメキと頭角を現わした白石和彌監督。蒼井優たちから、かつてないダークサイドを引き出してみせた白石監督が、気になる『かの鳥』の舞台裏を明かした。

 

──実在の犯罪事件を扱った「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石監督が、恋愛映画を撮ったことに驚きました。でも、中身は白石監督でなくては撮れない男と女とのドロドロの愛憎の世界。

ありがとうございます。僕にしか撮れない作品だと言ってもらえると、うれしいですよ。

──恋愛映画とはいえ、登場する人物はみんな倫理観のタガが外れたクズ人間ばかり。白石監督が原作小説を読んだ最初の印象は?

正直なところ、これを映画化するのは難しいなぁと思いました。ラストシーンがあまりにも衝撃的すぎて、受け入れ難かったですね。それと主人公の十和子(蒼井優)が過去に引き摺られている物語なので、過去パートの見せ方も簡単ではない。映画化は難しいな、と思って一度は本を閉じたんです。でも、本を読み終えて1日、2日……と経つうちに気になって仕方なくなってきたんです。原作者の沼田さんが描こうとした人間の美しさは伝わってくる。でも、それをどうやって映画の文法に置き換えればいいんだろうと。1週間経った頃には、あの物語のラストはやはりあれしかないんだと思うようになり、そのときには沼田さんの世界にすっかり心を奪われていましたね。もう映画を作るしかないなと(笑)。映画の宣伝コピーにある「究極の愛」を僕自身がスクリーンでどうしても見たくなったんです。

 

 

──映画化が難しいと白石監督が感じたのは、今の日本映画界ではここまでディープな男女の関係を描く作品は撮れないだろうということですか?

いや、単純に僕自身が、この原作にどう向き合えばいいのかに最初は戸惑ったということです。今の日本映画では難しいですか?

──今の日本映画はキラキラ映画全盛ですからね。

確かにそうですね。でも今回の『かの鳥』は、僕にとってのキラキラ映画ですよ。自分の本音を吐き、本能の赴くままに生きる、最高に輝いている人たちの映画なんです(笑)。

──白石監督の目には、魅力的に映るキャラクターばかり(笑)。「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」は金銭がらみで犯罪が起きますが、『かの鳥』は痴情のもつれが事件を招いてしまう。フィクションの世界ですが、リアリティーがあります。

すごく想像しやすいですよね。現実に、こういう人たちはいるんだろうなと。陣治(阿部サダヲ)が最後に見せた行動は別にしても、男が働いて稼いだお金を女は別の男に貢いでしまうとか、そんな話はいくらでもあるでしょう。1000万円くらい、平気で貢いじゃう。それに日本人って不倫ものが好きですよね。不倫はダメだ、ダメだと騒いでいるわりには、楽しくて仕方ないわけですよ。そういった風潮へのカウンターにもなるなと思いましたね。

 

 

──白石監督のデビュー作「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(00年)は障害を持つ兄と暮らす弟、その兄弟宅に住み着いたデリヘル嬢との共同生活の物語でした。「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」も含め、閉鎖的な環境の中で独自のルールで生きながらえる人たちを描いたものが白石作品には多いですね。

確かに、今回の『かの鳥』にも通じる部分があるかもしれません。自分ではそんなに意識しているつもりはないんですが、“疑似家族”ものが好きなようです。デビュー作の「ロスパラ」も疑似家族の物語だし、「凶悪」もリリー・フランキーさんが「僕たちは家族じゃないか」という台詞がある。「日本で一番悪い奴ら」は綾野剛を中心にしたギャングファミリーですしね。ある意味、僕はずっと本当の家族ではない、疑似家族を描き続けているようです。『かの鳥』の十和子と陣治も一緒に暮らしてはいるけど、籍は入れていないから、一種の疑似家族なのかもしれません。