Oct 26, 2017 interview

テレビで見る阿部サダヲとは全く違う!粗野で下品で熱い男を怪演した『かの鳥』インタビュー

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どの登場人物にも一切共感はできません(笑)。

 

──昨今のテレビドラマやCMで阿部さんを知った方は、陣冶を演じる姿に大きなギャップを覚えることもありそうですね。阿部さんご自身もともと舞台ではダークな役柄も演じられていますが、お茶の間では良きパパのイメージが浸透している気がします。

そうですね、たしかに娘の受験を応援するパパとか、親友の子供を引き取って育てたりとか、そういう作品から僕を知ってくださった方はそんなイメージを持ってくださる方も多いと思うので。僕自身今後もどんな役でも演じてみたいですけれど、イメージにない方の役をやってみたいなと感じることもありますね。

──そういう意味で言うと、十和子演じる蒼井優さんとはベッドシーンなどもありましたね。

僕も慣れていないので極意はわからないですけど、恥ずかしがらずにやり切ることが大事なんだろうと思っていたら、蒼井さんは僕以上に堂々とされていて。とにかく迷われない方なので、パパッとやりましょう、みたいな雰囲気で進んで行きました。おかげでとても助かりました。

──なるほど。あまり入念にリハーサルをされたりではなく、流れだけ確認してすぐにスタートするようなイメージですか?

そうですね。監督も、その辺に手を置いていれば実際に肌に触れているように見えるから、という映り方の角度を教えてくれるので。蒼井さんもそれを一緒に聞いて、なるほどなるほど、と。

 

 

──お二人の息が合ってこそ、実際に触れてはいないのに、まるでお互い触れ合っているように見えるリアルなシーンが作れるんですね。

そうですね。これはここだけの話なんですけど、松坂くんのベッドシーンは、監督からの指導なしでOK出たらしいですよ(笑)。

──松坂さんはこの作品の直前まで、舞台「娼年」で連日ベッドシーンに挑まれていた成果を遺憾なく発揮されていたということでしょうか(笑)。完成された作品をご覧になってみて、どんな感想を抱かれましたか?

十和子と水島がホテルへ行くシーンで、ベッドの上で砂漠の話をしているときに天井から砂が降ってくるんですよ。最初に観たときは思わず「え?」と言ってしまったくらい、すごいことを思いつくなと感心してしまって。台本には砂が降ってくる、なんて書いていなかった気がするので、きっと監督や美術さんのアイデアだと思うんですよ。天井から砂を降らすってオーソドックスな手法かもしれないけど、あまり観たことがない絵になっていておもしろかったです。

 

 

──先ほどから何度か蒼井さんのお話が出てきましたが、共演されてみての印象を改めてお伺いできますか?

男性っぽいという訳ではないですが、とても「男前」でサッパリしているんですよ。もちろん美しい方ですけど、それよりもかっこよさの方が先に立つような。撮影にも時間がかからないのはもちろん、着替えも早いし、全てに決断も早くて。とにかく何事においても時間のかからない方、という印象です。

──ストーリーは究極の愛を描いた驚きのラストシーンで幕を閉じますが、あのラストについて阿部さんはどんな風に思われました?

まず台本を読んで、その後に原作も読みましたけど、それでもやっぱりラストには「どういうことなの?」という感想しか出て来なかったですね。今までに出会ったことのない愛の形だったので、これは素直にすごいなと思いましたし、同時に執着なのか、愛情なのか、呪いなのか、そういった類の恐ろしさも感じました。

──陣冶の表した十和子への愛の形に関して、理解はできます?

いや、なかなか理解することは難しいですよね。僕はあんな風に人を愛したことがないし、僕は陣冶と違ってもう子供もいますし(笑)、これから先も起こり得ないことですけど。共感というよりは、そういう形の愛もある、という捉え方をするのが正しいのかなと思います。劇場へ足を運んでくださる方も、それぞれの捉え方で陣冶の選んだ愛の形を見届けていただけたらと思います。

 

 

──今作には、金も地位もない不潔で滑稽な陣冶、妻子があるのに十和子に手を出す水島、人を人とも思わない野心家の黒崎、おおよそ共感などできないダメな男たちが出てきますが、一番親しみを持てるのは誰でしょう(笑)?

それは究極の質問ですね、即答できますけど、いないです(笑)。わかるなーっていう部分もありませんし。見た目やステイタス的には黒崎って言いたいところですけど…。この中で一番ダメなのは水島でしょうね。救いがないし、しぶとく生きていきそう。

──水島にも、とある災難が降りかかりますが……。

でも彼なら、あの出来事さえも自慢しながら生きていきそうじゃないですか。それがまた水島、っていう感じですよね。

取材・文 / 加藤蛍
撮影 / 大川晋児

 

 

プロフィール

 

阿部サダヲ

1970年生まれ、千葉県出身。92年より松尾スズキ主宰の「大人計画」に参加、同年「冬の毛皮」で舞台デビュー。その後は舞台のみならず、映画、テレビドラマ、パンクコントバンド「グループ魂」のボーカルとして紅白歌合戦へ出演を果たすなど、その活動は多岐にわたる。07年に映画初主演を務めた「舞妓Haaaan!!!」で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。19年放送予定のNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」では主演が決定している。

 

作品紹介

 

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』

下品で貧相、金も地位もない15歳上の男・陣治と暮らす十和子は、8年前に別れた野心家の男・黒崎のことを忘れられずにいた。清潔感のない陣治に嫌悪感を抱きながらも、働きもせず陣治の稼いできた金で怠惰な毎日を送っていたが、クレームを付けに行った先で出会った妻子持ちの水島に黒崎の面影を重ね、関係を持つ。その数日後、家に訪ねてきた刑事から、黒崎が行方不明であることを告げられる十和子。水島との関係を知りながら1日に何度も十和子に電話をかけたり、尾行するなど、異様なまでの執着を見せる陣治。黒崎の失踪に陣治が関係しているのではないかとの疑いを持った十和子は、その危険が水島にも及ぶのではないかと考え始めるが…。

原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
監督:白石和彌 
出演:蒼井優 阿部サダヲ 松坂桃李/村川絵梨 赤堀雅秋 赤澤ムック 中嶋しゅう /竹野内豊 
配給:クロックワークス R15+ 
(c)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会 2017年10月28日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
公式サイト:http://kanotori.com/

 

原作紹介

 

「彼女がその名を知らない鳥たち」沼田まほかる/幻冬舎

主婦、僧侶、会社経営などを経て56歳で小説家デビューを果たした沼田まほかるによる長編ミステリー。8年前に別れた黒崎を忘れられない十和子は、淋しさから15歳上の男・陣治と暮らし始める。下品で、貧相で、地位もお金もない陣治。彼を激しく嫌悪しながらも離れられない十和子。そんな二人の暮らしを刑事の訪問が脅かす。「黒崎が行方不明だ」と知らされた十和子は、陣治が黒崎を殺したのではないかと疑い始めるが…。