出演作選びの根底にある“映画好き”であるということ、人生のバイブル
――柄本さんは映画好きとして有名で、多岐にわたる作品に出ていらっしゃいますが、出演作はどういう視点で選ばれているのか興味があります。
そこまで自分を客観的に見られていない部分があるので、自分の中では直感でしかないというか。事務所と相談しながら選んでるんですけど、極論を言えば、「これをやってください」と言われた時に、例えばこの役のオファーが自分に来た理由とか、この役をやる意味とかは俺は全然わからないんです。
ただ、選び方の根底にあるものは映画好きということ。だから共演の人とかこの監督だからとか、そういうところは大きいです。今回で言えば桃李で、本木(克英)監督で、時代劇で、っていうことだけでもう「やりたいです!」みたいな。本木監督も好きだし、桃李とも久しぶりだし、そういう情報をもらった段階でやりたい! と思うミーハーチョイスというか(笑)。(岸部)一徳さんと共演できるとか、(石橋)蓮司さんと共演できるとか、それは役がどうこうとか作品の大小とかは関係なく、何をおいても「やります」となります。そういった情報がなく、純粋に脚本だけ読む場合はどうだろうって考えながら決めますけど、それでも結局は直感になるのかな。やってみないとわからないので、楽しめそうだったらいいなぁと思っています(笑)。
――ありがとうございました! では最後に、otocotoではご自身のルーツだったり、影響を受けた作品をひとつお伺いしていますので、柄本さんにも挙げていただければと思います。
ルーツというか、バイブル的なものでもいいですか? 柳家小三治さんの「落語家論」という本は何度も読み返すたびに新鮮です。師匠のエッセイなんですけど、僕にとって宝物のような言葉がたくさんありますね。あと石倉三郎さんのエッセイ「世間の寸法四十八手」(現「粋に生きるヒント」)も。三郎さんには「棚から牡丹餅」「濡れ手で粟」「果報は寝て待て」という好きな座右の銘が3つあって。例えば「棚から牡丹餅」は棚の上から牡丹餅が降ってきて得するという意味ですけど、どの棚の前に立っていたか、その見る目は鍛えなくちゃいけねえよっていうんです。「濡れ手で粟」では、乾いた手を粟の中に入れてもくっついてこないから「濡らす努力をお前はしたのか」と問いかける。要するに仕込みの話なんですけど、めちゃくちゃかっこいいことがいーっぱい書いてあるんです。そのさぶ兄の本と小三治師匠の本は何度も読み返したくなります。
取材・文/熊谷真由子
撮影/三橋優美子
1986年、東京都出身。『美しい夏キリシマ』(03年)で主演デビュー。近年の映画出演作に、『GONINサーガ』(15年)、『追憶』(17年)などの他、『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』『ポルトの恋人たち 時の記憶』(18年)ではキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、『きみの鳥はうたえる』で毎日映画コンクール男優主演賞に輝いた。現在、連続テレビ小説「なつぞら」(NHK)に出演中。大河ドラマ「いだてん」(NHK)への出演が決定しているほか、映画の待機作に『アルキメデスの大戦』(7月26日公開)、主演作『火口のふたり』(19年公開)がある。
坂崎磐音(松坂桃李)は、故郷・豊後関前藩での哀しい事件により、二人の幼馴染・小林琴平(柄本佑)と河出慎之輔(杉野遥亮)を失い、祝言を間近に控えた許嫁・奈緒(芳根京子)を残して脱藩。全てを失い、浪人の身となった。江戸で長屋暮らしを始めた磐音は、大家・金兵衛(中村梅雀)の紹介もあり、昼間はうなぎ屋、夜は両替屋の用心棒として働き始める。穏やかで、礼節を重んじる優しい人柄に加え、剣も立つ磐音は次第に周囲から信頼され、金兵衛の娘・おこん(木村文乃)からも好意を持たれるように。そんな折、幕府が流通させた新貨幣を巡る陰謀に巻き込まれ、磐音は江戸で出会った大切な人たちを守るため、哀しみを胸に悪に立ち向かう――。
原作:佐伯泰英「居眠り磐音 決定版」(文春文庫 刊)
監督:本木克英
脚本:藤本有紀
出演:松坂桃李 木村文乃 芳根京子/柄本佑 杉野遥亮 佐々木蔵之介 奥田瑛二/陣内孝則 石丸謙二郎 財前直見 西村まさ彦/谷原章介 中村梅雀 柄本明 ほか
配給:松竹
2019年5月17日(金)公開
©2019映画「居眠り磐音」製作委員会
佐伯泰英の最高傑作との呼び声も高く、“平成で最も売れている時代小説シリーズ”として累計2000万部を突破する人気作。2002年に第一作「陽炎ノ辻」が発表されて以降、全51巻、スピンオフ2巻が刊行されている。2007年~17年にかけて、山本耕史の主演で『陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~』としてTVドラマシリーズ化された。
落語家・柳家小三治によるエッセイ。噺家になったばかりの若者へ向けて、自身が師匠の姿から学んだことや、修業のいろは、楽屋の風習、人との出会い、筋を通すということ、旅、酒についてなどが綴られる。
俳優・石倉三郎の自叙伝。貧しい家庭に生まれ、学歴も得られなかった著者が役者業をどのように勝ち取ってきたのか。「濡れ手で粟」「棚からぼた餅」「果報は寝て待て」の“三大法典”をもとにした“粋に生きるヒント”が収められている。