「世の中を変えたい」という根の想いを映画に
池ノ辺 これは皆さんにお聞きしているのですが、お二人にとって映画ってなんですか。監督はいかがでしょう?
荒井 映画があったからここまで生きてこられた。経済じゃなくて精神ね。
池ノ辺 映画をやろうと思ったきっかけになる映画があったんですか。
荒井 大島渚の『愛と希望の街』(1959) かな。大島さんの「戦後映画・破壊と創造」やシナリオ集は読んでいたけど、映画はなかなか見られなかった。法政大学の大学祭でやっているというので観にいった。それは、結局貧乏人と金持ちは絶対仲良くなれないんだという映画で、映画でこういうことをやれるんだ、だったら映画をやろうかなと思ったんだけれど、その前に世の中を変えないといけないなと思ったんです。

池ノ辺 それはどういうこと?
荒井 貧乏人と金持ちに分かれるような世界じゃない世界に変えなくちゃと。
池ノ辺 そこから始まったんですね。
荒井 そう、それで大学に行って学生運動をやろう。でもたぶん負けるから、負けたら映画をやろうと。まあ、当時から、絶対負ける、勝てるわけがないと思ってたけど。
池ノ辺 でも映画の道に来てよかったですね。
荒井 いやぁでも、大変は大変でしたよ。20代、自分は親の家に居たのでなんとかやっていけたけれど、そうじゃなければ食べられなかったですよ。国民年金払えなかったから、もらえないし。大学の先生やりながら、なんとか。
池ノ辺 これはもうこの映画を大ヒットさせないとですね。
荒井 大ヒットしたらって、そんな夢のようなこと言わないでよ (笑) 。
池ノ辺 では、咲耶さんにとって映画ってなんですか。
咲耶 いろんな意味での「夢」ですね。”夢心地”という意味も含めて。映画は、夢見ているみたいになんでもありですし。そもそも私が役者という仕事を本気でやりたいと思ったのは、自分が何かの役を演じている時に、何か脳内麻薬のようなものが出てきてそれがものすごく快感なんです。それが叶うのも夢である映画だし、白昼夢を見ているような気分になることもある。そうしたいろんな意味で、私の中では「夢」という単語で存在しています。

池ノ辺 咲耶さんにとって映画はまず演じる側からのものなんですね。観る側としてはどうですか?
咲耶 映画だからこそできること、あるいは映画だからこその表現で描かれているものが多いですよね。もちろん、描かなければいけない現実というものを題材にした作品もありますけど、それでもドキュメンタリーでない限り “事実”とはちょっと違う、創作物です。観るものとしては、そんな感覚で自分は映画に向き合っていて、それは「夢」につながると思います。
荒井 咲耶はこの仕事、向いていると思うよ。
池ノ辺 じゃあ、今後の作品も楽しみですね。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1947 年生まれ、東京都出身。季刊誌『映画芸術』編集・発行人。日本映画大学名誉教授。若松プロの助監督を経て、77 年の『新宿乱れ街いくまで待って』で脚本家デビュー。以降、『赫い髪の女』(79・神代辰巳監督)、『キャバレー日記』(82・根岸吉太郎監督)など数々の日活ロマンポルノの名作の脚本を執筆。日本を代表する脚本家として活躍し、『W の悲劇』(84・澤井信一郎監督)、『リボルバー』(88・藤田敏八監督)、『ヴァイブレータ』(03・廣木隆一監督)、『大鹿村騒動記』(11・阪本順治監督)、『共喰い』(13・青山真治監督)の5作品において、キネマ旬報脚本賞を受賞した。5回受賞は橋本忍と並ぶ最多受賞記録である。その他、脚本を手がけた作品に、『神様のくれた赤ん坊』(79・前田陽一監督)、『嗚呼!おんなたち 猥歌』(81・神代辰巳監督)、『遠雷』(81・根岸吉太郎監督)、『探偵物語』(83・根岸吉太郎監督)、『KT』(02・阪本順治監督)、『やわらかい生活』(06・廣木隆一監督)、『戦争と一人の女』(13・井上淳一監督)、『さよなら歌舞伎町』(15・廣木隆一監督)、『幼な子われらに生まれ』(17・三島有紀子監督)、『天上の花』(22・片嶋一貴監督)、『あちらにいる鬼』(22・廣木隆一監督)、企画・脚本(佐伯俊道・井上淳一共同)の『福田村事件』(23・森達也監督)など。脚本・監督を務めた作品には、新人監督に贈られる新藤兼人賞を受賞した『身も心も』(97)、第 67 回読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)を受賞した『この国の空』(15)、第 93 回キネマ旬報ベスト・テン1位の『火口のふたり』(19)、日本映画プロフェッショナル大賞作品賞・監督賞を受賞した『花腐し』(23)がある。
俳優
2000年4月11日生まれ、東京都出身。『お江戸のキャンディー2 ロワゾー・ドゥ・パラディ(天国の鳥)篇』(17・広田レオナ監督)で俳優デビュー。主な出演作に、「君が死ぬまであと100日」(23・NTV)、「笑うマトリョーシカ」(24・TBS)、『桐島です』(25・高橋伴明監督)などがある。今後は、『金子文子 何が私をこうさせたか』(26/2・浜野佐知監督)、『粛々のモリ』(26年以降公開・広田レオナ監督)、2026年1月31日放送のBS日テレ「旅人検視官 道場修作 長野県車山高原殺人事件」の出演も控えている。

小説家の矢添は、妻に逃げられ結婚に失敗して以来、独身のまま40代を迎えていた。心に空いた穴を埋めるように 娼婦・千枝子と時折り体を交え、捨てられた過去を引きずりながらやり過ごしていた。そして彼には恋愛に尻込みするもう一つの理由があった。それは、誰にも知られたくない自身の秘密にコンプレックスを抱えているから。そんな矢添は、自身が執筆する恋愛小説の主人公に自分自身を投影することで「精神的な愛の可能性」を自問するように探求するのが日課だった。ところがある日、画廊で偶然出会った大学生の瀬川紀子と彼女の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至り、矢添の日常と心が揺れ始める。
脚本・監督:荒井晴彦
原作:吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)
出演:綾野剛、咲耶、岬あかり、吉岡睦雄、MINAMO、原一男、柄本佑、宮下順子、田中麗奈
配給:ハピネットファントム・スタジオ
R18+作品
©2025「星と月は天の穴」製作委員会
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