ベテラン俳優たちの底力
池ノ辺 役者の皆さんが、素晴らしかったです。特に井川遥さんなどは、これが代表作になるんじゃないかと思いました。
土井 僕たちがこれまでイメージしてきた井川さんとは全然違う役かもしれないですね。井川さん自身にとっても挑戦だったとは思います。でも僕は、以前に仕事でご一緒したときの印象から、井川さんなりの芯の“太い”須藤葉子ができるんじゃないかという感覚はありました。
池ノ辺 実際にはどういった役作りをされたんですか。
土井 須藤は弱いところやデレたところはそうそう簡単には見せてくれない複雑な人ですから (笑) 。一つ一つのシーンで、須藤だったらこれはどういうトーンで喋るだろうか、ここで堺雅人さん演じる青砥健将のセリフを受け取ってどういう表情になるだろうか、そんなことを堺さんも交えて現場で細かく確認しながら作り上げていくという感じでした。非常にいい、クリエイティブな現場だったと思います。



池ノ辺 一緒に作り上げていったんですね。
土井 それと、あの2人の距離感がいいんですよね。酸いも甘いも噛み分けているような年齢ですが、でも、だからこその相手に対しての遠慮とか、スッと素直になれなかったりとか、そういう独特の関係がこの話のいいところでもあると思っています。
池ノ辺 他の役者さんたちも良かったですよね。私が特に好きなのが、焼き鳥屋の店主を演じられていた塩見三省さんです (笑) 。
土井 原作には出てこない役なんですよ。脚本を作っていく中で、最後に青砥には原作と違う場面を用意したいと思ったんです。ただ、その感情に至るためにはどうしたらいいんだろうといろいろ考えた結果、生まれた役なんです。2人以外で2人のことを知っていて、かつ、この2人の時間をそっと見守ってきた存在ですね。でも何より、演じてくださった塩見三省さんの力ですよね。塩見さんの人生、人柄、これまで生きてきた時間の全てが説得力となって、あそこに映っている。やっぱり俳優ってすごいなあと改めて思いました。
池ノ辺 まさに見守るというか、二人のあの時間の生き証人としてあの大将がいて、だからこそ観る私たちの胸にも迫るものがありました。
