「世界は多面体である」と映画は気づかせてくれる
池ノ辺 監督はこれまで、写真やMV、CM、さらに映画と、さまざまな作品に関わってこられたわけですが、監督がものづくりをする上で大切にしてきたことはなんですか。
奥山 映画であれ、写真やMV、CMであれ、それらが作られる過程には誰かとのコミュニケーションがあります。根本をたどっていくと、会話の蓄積でありメールのやり取りであり、そうしたものが最終的に映像や写真といったものになっているんだと思うんです。もっと言うなら、映画なら映画を観に来てくださったお客さんというのは映画を観ているというだけでなく、その映画が完成するに至るまでの僕ら作り手たちのコミュニケーションの有り様を見てくださっているということでもある。そうならば、そのコミュニケーションがどんなものだったかというのが、とても大事ですよね。どういった心持ちで一緒に作っている仲間と接してきたか、真摯な思いや誠実な思いを持って言葉を交わしてきたか、そこが問われるのだと、それがまさに作品に直接現れるのだと思っています。ですから、人とのコミュニケーションに極力嘘がなく、誠実さを持って向き合うことを大事にしています。

池ノ辺 監督がそうした意識でいることで、自然と周りにも、そこに共感して同じ気持ちでものづくりに向き合う人たちが集まっている。今回の映画を拝見してお話を伺って、そんな感じがしました。最後に、監督にとって映画ってなんですか。
奥山 それはずいぶん難しい質問ですね。今の段階で僕が思っているのは、自分が見ているのは世界の一面に過ぎないということに気づかせてくれるもの、世界がいかに多面体であるかということを見せてくれるものだということです。つまり、僕らが日常生活を送っている中では、自分たちの視点からしか世界は捉えられないですよね。でも世界というのは、一つの面だけじゃない、表があり裏があり、さらに奥行きを見ていくと側面が立ち現れてそこにも裏と表がある。何か物事と対峙した時にも、こちらから見るとこうだけれど、こっちから見るとまた別のものが見えてくる。自分自身ですら、自分が思っているのと他者が思っているのとではずいぶん異なる。光があれば影があってと、必ず相反するものがあって矛盾を抱えているのが世界だと思うんです。そうした時に、世界をどこから見るか、それを提示してくれるのが映画で、映画を観ることで、世界や人間に対して、こんな視点があったのか、自分には見えてないものがあったな、なんて世界は面白いんだろう、そんなことを気づかせてくれるのが映画だと思うのです。

池ノ辺 監督が今回の作品で見せてくれたのはどんな面ですか。
奥山 僕の視点から見た貴樹の魅力で、それは彼の幼少期の純真さであったり青春の高潔さであったり、さらには大人になるということの惑いであったり、そうしたものを僕らのチームなりの見方で光を当てたものになっていると思います。ですから別の脚本家や監督であれば、当然また違ったものになるでしょうね。
池ノ辺 ありがとうございました。次回作も楽しみにしています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 立松尚積
監督
1991年生まれ。初監督作品『アット・ザ・ベンチ』が第15回北京国際映画祭「FORWARD FUTURE」部門にて最優秀脚本賞、最優秀芸術貢献賞をダブル受賞。
これまでに米津玄師「感電」「KICK BACK」星野源「創造」のMV、ポカリスエットのCMなどを監督。第34回写真新世紀優秀賞受賞。第47回講談社出版文化賞写真賞受賞。

18年という時を、異なる速さで歩んだ2人が、ひとつの記憶の場所へと向かっていく。交わらなかった運命の先に、2人を隔てる距離と時間に、今も静かに漂うあの時の言葉。――いつか、どこかで、あの人に届くことを願うように。大切な人との巡り合わせを描いた、淡く、静かな、約束の物語。
監督:奥山由之
原作:新海誠 劇場アニメーション「秒速5センチメートル」
出演:松村北斗、高畑充希、森七菜、青木柚、木竜麻生、上田悠斗、白山乃愛、宮﨑あおい、吉岡秀隆
配給:東宝
©2025「秒速5センチメートル」製作委員会
公開中
公式サイト 5cm-movie
 
             
             
	 
     
     
     
     
     
     
    