ストップモーション・アニメが紡ぎ出すリアルでファンシーなポケモンの世界
池ノ辺 今回配信される新エピソードは、前回の続きになるわけですが、ストーリーの上で何かこだわったところ、こうしようと思ったところはありますか。
小川 前回の1話〜4話ははじめてのストーリーを展開するのに、登場人物、例えばハルやコダックはこういう性格だよね、がわかるような展開にしたり、リゾートの紹介、この世界はこんなふうになっている、ということがわかるように、映像も引きの画 (え) でみせるようにすることが多かったです。5話以降は、これまでに紹介された世界観を深めたり、あの世界にはこんなこともあるんじゃないか、ということに切り込んだ話であったり、さらにはポケモンと人間の関係性などにも言及するような、そういうお話にしたいと思ったんです。ですから映像としても、カメラはもう少し登場人物たちに近寄って、細かいところを写していけたらいいなと思いました。


池ノ辺 確かに、あの世界に触れられ、その感触が伝わるような、そんな親しみのある空間になっていました。
小川 ポケモンがいる世界ってファンタジーなんですけど、全くのファンタジー、ファンシーな世界にしてしまうと、完全に空想の世界になってしまって、観る人がギャップを感じてしまうと思うんです。これは私とは関わりのない知らない世界の話だわ、となってしまう。この「ポケモンコンシェルジュ」では、そうじゃないところを描きたかったんです。つまり、自分たちがよく知っている世界と地続きのところにポケモンがいる。主人公のハルは、普通のOLだったのが、リゾートに来て、コンシェルジュになっている。現実の世界からかけ離れた、全くの空想の世界ではなくて、「こういう場所あるよな」と観る人に思わせられるような、そういうポケモンの世界を大事にしています。
池ノ辺 私も、疲れた時にあのリゾートに行きたいなと思いました(笑)。疲れて夜、家に帰ってきて、そこで「ポケモンコンシェルジュ」を観て、癒やされて、ああ、いつでもどこでも観られるNetflixって、こんな時のためにあるんだと思いました(笑)。そういえば、ストップモーション・アニメは1秒24コマで撮っていくんですよね。気の遠くなるような作業だと思うんですが。
小川 ストップモーション・アニメに関しては、僕は学生の時に作っていたし、Netflixの「リラックマ」シリーズ (2019〜) にも携わっていたので、あまり心配はしていませんでした。今回のチームも「リラックマ」の頃から一緒にやっていた人たちが多いので、制作体制についてもある程度予想できていました。ただ、ポケモンっていっぱいいて、メインで喋っている以外に、全然メインの話には関係ないけど背後で何かしているようなポケモンやキャラクターたちがいろいろ出ているんです。そういう背後も含めてしっかり描きたいと思っていたので、当然動かさなければいけないポケモンが増えていきます。これをどうやって進めていこうかということはずいぶん考えました。
池ノ辺 後ろの方にいるポケモンたちも、みんな違う動きをしているんですね。これを1コマ1コマ撮るのだと考えたら、終わる気がしなかっただろうなとこちらが心配になりました。でもそういう作業が監督たちにとっては楽しいんだろうなとも思いましたけど (笑) 。
小川 メインとなる人物たちは、もちろんストーリーの流れに従って動いていくわけですが、背景のキャラクターたちの動きというのは、いわば自由演技みたいなところがあって、実際にはボケて細かいところまで見えなかったりするのですが、アニメーターの人たちも面白がって、そこに力を注ぐんです。本当にこんな島があるんじゃないかと思わせるためにも、ストーリーと直接関わらない背景も重要なファクターだと思っています。



池ノ辺 撮影する時、人形は何人かで動かしていくんですか。
小川 どんなふうに進めるかというのは結構いろんな場合があります。例えば、手前でハルやコダックがメインストーリーの演技をして、奥の方で島に来ているお客さんとかポケモンがいるという場合、手前と奥で別の人が撮って、あるいはタイミングをずらして撮って、後で合成するという方法があります。一つの画面にうつる人形を、複数のアニメーターが同じステージで同時に動かすというのはあまりやらないです。
池ノ辺 ハルたちのキャラクターの顔の表情がすごく豊かに感じたんですけど、あれは顔だけのパーツで撮ったりするということですか。
小川 顔の場合、目の形自体はあまり変形しないんですが、顔の下半分、つまり鼻、口、頬などはパーツがたくさんあって、それを交換しながら表情を出していきます。まぶたとか眉毛は、貼り付けられるようになっていて、好きな位置に動かしながら撮ります。
池ノ辺 撮った後に見てみたら、途中におかしな動きのコマ、不自然な位置のコマがあったという時はどうするんですか。
小川 1コマ2コマ程度だったら戻る、ということもありますが、だいぶ撮ってから真ん中あたりがおかしかったとなると、もう戻るのは無理なので、撮り直しかポストプロダクションで編集してなんとかします。
池ノ辺 そう考えるとやはり大変な作業ですね。