「次はもっとうまく」の想いが映画を続けさせる
池ノ辺 監督は大学を出た後に一度就職して、その後、改めて勉強してこの業界に入ったと聞いたのですが、それはやはり映画をやりたいと思ったからですか。
横浜 映画はやりたかったんですが、最初から監督をやりたいわけではなくて、書くことをやりたいという想いがずっとあったんです。でも小説家になるほど文章は書けないし、脚本だったら書けるかもしれないと思っていました。会社には行きましたが仕事ができないタイプの社員で、早く辞めたい、辞めたら次はシナリオの学校に行こうと、会社に行っている頃から思っていて、それで辞めてすぐにシナリオの学校に行きました。

池ノ辺 シナリオを書いて、じゃあ次は監督もという感じですか。
横浜 脚本を書いたら、それを自分で撮ってみようという流れには、どうしてもなりますね。
池ノ辺 ではそんな監督にとって、映画ってなんですか。
横浜 それはわからないですね。というか、わからないからずっとやっているんだとも言えるかもしれない。そもそも、自分にとって映画とは何かと考えたことがないです。観るのも好きだから観ている。作る方については、今のところまだ確たる達成感を覚えるというところまでは行っていなくて、毎回、「もっとできたんじゃないか」とか「次はもっとうまくできるかもしれない」とかそんな気持ちがあって次の作品を撮っている感じなんです。映画とは何かを語れるようなところまで全く行っていないというのが本当のところですね。

池ノ辺 これはいろんな監督にお聞しているんですけど、皆さんいろいろで、中には生活しなきゃならないからという人もいたりします。
横浜 でも映画で生活できたらそれは一番いいですよね。そうはいかないという人の方が多いような気もします。
池ノ辺 確かに。先ほど、脚本を書いている時が一番楽しかったとおっしゃっていましたけど、それが映画という形になるっていうのは、素晴らしいことですよね。
横浜 それは本当にそう思います。一人で書いていたものが、いろんな人の「力によって」、一つの「かたちになり」、それがまたお客さんに広がっていくというのは、映画作りの一番の喜びだなと思います。
池ノ辺 これからの作品も楽しみですが、まずは初日、楽しみにしています。
横浜 ありがとうございます。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1978年、青森県出身。横浜の大学を卒業後、会社員を経て、2002年に第6期映画美学校フィクションコース初等科に入学。2004年、同高等科卒業。卒業制作の短編『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』が 2006年第2回 CO2オープンコンペ部門最優秀賞受賞。CO2 からの助成金を元に長編1作目となる『ジャーマン+雨』を自主制作。翌 2007 年、同作で第3回 CO2シネアスト大阪市長賞を受賞。2008年、商業映画デビュー作『ウルトラミラクルラブストーリー』を監督、翌年全国公開。同年のトロント国際映画祭、バンクーバー国際映画祭他、多くの海外映画祭にて上映された。また同作にて、第19回 TAMACINEMA FORUM 最優秀作品賞を受賞。2016年『俳優 亀岡拓次』が公開。2021年に全編青森にて制作した『いとみち』は、第16回大阪アジアン映画祭にて観客賞とグランプリをダブル受賞。第13回 TAMA 映画賞特別賞、第36回山路ふみ子文化賞を受賞するなど、多数の賞を受賞した。その他の作品に、短編映画『おばあちゃん女の子』(2010)『真夜中からとびうつれ』(2011)『りんごのうかの少女』(2013)『トチカコッケ』(2017)、テレビドラマ「バイプレイヤーズ 」シリーズ(2017~18/TX)「ひとりキャンプで食って寝る」(2019/TX)「有村架純の撮休」(2020/WOWOW プライム)「季節のない街」(2023/Disney+)など。

アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす14歳の美術部員・奏介とその仲間たちは、夏休みにもかかわらず演劇部に依頼された絵を描いたり新聞部の取材を手伝ったりと毎日忙しい。街には何やらあやしげな“アーティスト”たちがウロウロ。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々に飛び込んでくる。ものづくりに夢中で自由奔放な子供たちと、秘密と嘘ばかりの大人たち。果てなき想像力が乱反射する海辺で、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌。
監督・脚本:横浜聡子
原作:三好銀「海辺へ行く道」(シリーズ全3巻)(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
出演:原田琥之佑、麻生久美子、高良健吾、唐田えりか、剛力彩芽、菅原小春、蒼井旬、中須翔真、山﨑七海、新津ちせ、諏訪敦彦、村上淳、宮藤官九郎、坂井真紀
配給:東京テアトル、ヨアケ
©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会 ©三好銀/KADOKAWA
公開中
公式サイト umibe-movie