Aug 29, 2025 interview

横浜聡子監督が語る 瀬戸内・小豆島に魅せられて‥‥ここでしか生まれなかった物語『海辺へ行く道』

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穏やかな島を彩る個性的で楽しい登場人物たち

池ノ辺 主演の原田琥之佑くんはオーディションで選ばれたそうですが、撮影の時はどんな感じでしたか。映画初出演というわけではないんですよね。

横浜 この映画の前の『サバカン SABAKAN』(2022) が、彼が出た映画では一番大きいのではないかと思います。原田くんは、あの映画のまま、東京生まれで都会的なんですけど、若者の鋭さとかハングリーさというのを全然感じさせない、すごくニュートラルな雰囲気でその場にいられる人なんです。トゲトゲしていないんですよね。若者って、特に大人に対して闘争心とか反抗するような気持ちが何かしらあるように思っていたんですけど、原田くんはそういうのを全然感じさせない子で、大人に対しても同世代の子たちに対してもすごくフラットに行き来できる、そういう雰囲気を纏っている子でした。ですからその原田くんのままで現場にいて、それが映画の中に映されれば奏介になれるという感覚で見ていました。

池ノ辺 癒し系ですごくいい子っぽいですよね。

横浜 そうですね、いい子なのは間違いないです (笑) 。

池ノ辺 蒼井旬くんはどうですか。

横浜 蒼井くんは、彼が小学校5、6年生の、背も小さくて声変わりもまだくらいの時に、一緒にドラマを作ったことがあるんです。でも今回のオーディションで、一番負けず嫌いだったのが蒼井くんでした。「俺は誰にも負けねーぞ」みたいな気迫がものすごくあって、そういう意味では原田くんとは全く対照的で、闘争心みたいなものを露わにするタイプでした。でも根は優しい子なので、おそらくオーディションという場になるとそういうところが出てくるんじゃないでしょうか。

池ノ辺 この映画の中では、海岸などあちこちにアート作品が置かれていましたが、あれはこの映画のために制作したんですか。

横浜 もともと小豆島にあるものもあります。というのは、瀬戸内海のあの辺りでは瀬戸内国際芸術祭というのが3年に1度あって、今年はちょうど開催年にあたるんです。小豆島にもその瀬戸芸の芸術作品が前からいろいろあって、その作品があるところで撮影させていただいたものもありますし、美術部が作ったものももちろんあります。

池ノ辺 生活の中にアートがあるというのは素敵だと思いました。ああいうところで生まれ育つと、気持ちも穏やかになって大人になってもあくせくしないのかなと思いました。

横浜 それはあるかもしれません。ちょっと羨ましいですよね。

池ノ辺 その雰囲気が映画にも出ていました。大人たちも個性的でバラバラなんだけれど、それなりに楽しくやっているんだろうなと(笑)。

横浜 まあ、みんな自分勝手ですよね、いい意味で (笑) 。

池ノ辺 映画の中で皆さんよく「自称〜」と言っていましたけど。

横浜 あのセリフは私が考えました。みんなそれぞれ目的は違うと思うんですけど、あの人たちはそもそもお金儲けのために何かを作り始めたわけではないと思うんです。ただ自分が面白そうだと思った、これをやったら楽しい自分がいるというのを感じて、作り始めたんだろうと。それは自分が映画を作り始めた時にそうだったんです。ただ自分がやりたいからやっているだけ、そこに対しては誰も何も言えない、そういう世界だと。

池ノ辺 じゃあ、監督も最初は「自称監督」と言ってたんですか (笑) 。

横浜 それはなかったですけど(笑)、でも気持ちは今も “自称” ですね。