Aug 29, 2025 interview

横浜聡子監督が語る 瀬戸内・小豆島に魅せられて‥‥ここでしか生まれなかった物語『海辺へ行く道』

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コロナ下の孤独で楽しいシナリオ執筆

池ノ辺 この映画は監督が企画を持ち込んだんですか。

横浜 いえ、プロデューサーの和田 (大輔) さんからいただいたお話です。

池ノ辺 話が来た時はどう思いました?

横浜 お話をいただく前から、原作の漫画を知っていて、かつ好きな作品だったんです。原作者である三好銀さんというのは、知る人ぞ知る孤高の作家と言われているような人で、マニアックというのともちょっと違うんですが、自分もファンでしたけど人にはあまり知られたくないと思わせるような、私にとってはそんな作家だったんです。ですから和田プロデューサーがその作品を知っていたということにまず驚きました。それと同時に、自分が面白いと思っていたものを、面白いと思う人が他にちゃんといたんだということが実感できて、それはすごく嬉しかったですね。

池ノ辺 好きな作品であれば、映像化のアイデアとかもすぐに思い浮かんだんじゃないですか。

横浜 映像化ということでは、私はシナリオがないと何も考えられないんです。頭の中にぼんやりと断片的なイメージは湧くんですけど、もとになる大きなものがないと動き出せないので、まずはシナリオの執筆に取り掛かりました。2020年、ちょうどコロナ禍の最中で、『いとみち』(2021) という映画の撮影が延期になったので、そのぽっかり空いた時期に『海辺へ行く道』のシナリオを書いていたんです。原作は短編の連続なので、その中から面白い人や好きなエピソードを自分でピックアップして一つにしていくという流れを作っていきました。自分一人で部屋の中で誰にも会わず、妄想の世界を繰り広げて、自分のやりたいことがその妄想の中でどんどん膨らんでいく。それを楽しみながらシナリオを書いていったんですけど、苦しくないシナリオ執筆というのは初めてでした。

池ノ辺 楽しい作業だったんですね (笑) 。

横浜 楽しかったです(笑)。世の中のみんなはコロナで沈んでいる時に、私は三好さんの世界でめちゃめちゃ楽しい時を過ごしていたんです。

池ノ辺 そういう時に、この役は誰、というような役者陣も思い浮かんだりするんですか。

横浜 その時には何もないですね。私は基本的には文字中心の人間なので、まずはお話を作るのが好きで、そこには実在の人物は全く登場しないんです。ですから役者を決めたのはシナリオを書いてから3年後のことです。