Jul 30, 2025 interview

見里朝希 監督が語る ストップモーションの限界に挑んだ“かわいい革命” Netflixシリーズ「My Melody & Kuromi」

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ストップモーションの限界に挑んだアクションシーン

池ノ辺 中にはアクションシーンもあって、とっても迫力がありました。あのシーンはどうやって撮っていったんですか。

見里 今回、カメラワークにもこだわりたいという思いがあって、新たなカメラ雲台を開発したんです。『PUI PUI モルカー』の時は、本やDVDを積んで、その上にカメラを置いて、間に厚紙などを挟んだり本を抜いたり足したりすることでちょっとずつ高さや角度を変えるという作業をしていたんです。まるでジェンガをやってるようなスタイルで撮っていたんですけど (笑) 、今回新しく開発した雲台は、つまみを動かすだけで、X、Y、Z軸のどの方向にも自在に動かせる、設定した位置にカメラを移動させられるというものなんです。それはもう僕にとっては革命的で、開発者と撮影監督の名前を融合させて冠し、この雲台を「かわじん」と呼んでいます。

池ノ辺 まさに画期的な道具ですね。

見里 そうなんです。それでカメラワークに対するハードルが、自分の中ではかなり低くなって、キャラクターを動かしながらカメラも動かすという作業が、格段にやりやすくなりました。アクションシーンに関しては、僕自身がハリウッドの激しいカメラワークのシーンが好きだったということもあったので、あまりストップモーション特有の制約に縛られないで表現したいと思ったんです。なので、自分が絵コンテを描く時はもちろん、他に絵コンテを発注する際にも、あえてストップモーションであることを意識しないでくださいとお願いしたんです。結果的に、CG的な作りのカットができてきたり、素晴らしいコンテが上がってきました。でもそこからは、やはり大変でした。撮影監督の方やアニメーターの方たちと、これをどうやってコマ撮りしようかと話し合いをして、検証に検証を重ねて仕上げていく感じでした。

池ノ辺 それがあのアクションシーンになったんですね。

見里 あのシーンは、もちろん大変ではあったんですけれど、やろうと思えば意外にできるんだなということがわかりました。自分の中ではストップモーションの表現の幅も広がったと思いますし、怖いものがなくなってきたんじゃないかと思います (笑) 。

池ノ辺 きっと、スタッフの皆さんもかなり大変だったでしょうね。

見里 ただ、僕が個人的にストップモーションに感じる魅力の一つに「めんどくさい」があるんです。

池ノ辺 じゃあ、周りの方たちもそういうことが大好きな人たちだったんですね (笑) 。

見里 たぶんそうだと思います。「めんどくさい」ことって、大多数の人はやろうとしないですよね。でも、それをやり通すことによって、より、唯一無二の作品に近づきやすくなる、そういう作品を作りやすくなるんじゃないかと思うんです。そういうのも、ストップモーションの技法に惹かれるところです。

池ノ辺 面倒と思うようなことが、結果としてどんどん素敵なものになっていくということですね。ここまできたら本当に怖いものなしにどんどん制作していけますね。

見里 そうですね。あとは、予算とスケジュール管理の問題だけです (笑) 。

池ノ辺 撮影ではどのくらいの時間がかかるんですか。

見里 撮影するにあたっては、1日で4秒分ができたらいい方です。中には、例えば先ほどお話ししたアクションシーンや、あるいはいっぺんにたくさんのキャラクターが動き回るようなシーンでは、1日に1秒ということもありました。

池ノ辺 つまり24コマ。

見里 気の遠くなるような作業で、正直なところ始まったばかりの頃は、これは本当に終わるのかなと思ったりしました。

池ノ辺 撮影が終わって、編集して音づけして、初号になりますが、感無量だったんじゃないですか。

見里 確かに達成感はありました。でも乗り越えてみると、意外と終わるものなんだなと、そういう気持ちもありました。ただ、撮影・編集段階からあまりにも映像を見過ぎていて、果たして作品として良い出来になっているのだろうか、それがもう感覚的にわからなくなっているんです。ですから、配信された後の反応は気になりますし、緊張感はあります。