100のコンテンツから選ばれるための、エンターテインメントの力
池ノ辺 沖縄ではすでに上映が始まっていますね。
平 僕自身も狙っていたことですが、沖縄ではかなり幅広い年代の方に観にきていただいていて、中には親、子、孫の3世代で来られている方たちもいるとか。
池ノ辺 それはすごい。
平 100ある娯楽のコンテンツの中から、この作品を選んでほしい。でも「命が大切」「戦争は悲惨だ」、そういう正しいことをまっすぐ伝えるだけでは届かない人がたくさんいます。まさに僕自身がそうでしたから。これまでも自分の周りにそういうコンテンツはたくさんありました。でも僕はそれには手を伸ばさず、普通にハリウッド映画を観たり、普通の日本映画を観たりしてきました。じゃあそういう人たちにもこの映画を届けるためにはどうしたらいいのか。やはりエンターテインメントとしておもしろくなければいけないと思ったんです。エンタメ性というのは、難しいところもあって、下手すれば不謹慎という評価が勝ってしまう。そことのせめぎ合いになります。いかにして子どもたちや若い人たちにこの映画を観てもらうかということは、僕の中では大きな命題だったので、沖縄で幅広い年齢層の人たちが観にきてくれているというのはすごく嬉しいし、よかったと思います。

池ノ辺 戦後80年ということで、この夏はいろいろな戦争の作品が公開されると思います。その一つがこの『木の上の軍隊』ですが、これから本作を観ようと思っている皆さんにメッセージをいただけますか。
平 80年前に戦争があったと言ったところで、正直わからないと思います。けど80年早く生まれていたら間違いなく自分たちは戦争に巻き込まれていた、そんな当たり前のことが、映画を撮っていてわかりました。ここに出てくる若者は僕たちと何も変わらない、普通の若者です。ただ、この二人は、2年間木の上で暮らすというあり得ない経験をして、しかも実際にあった出来事です。それをリアリティを持って描いているつもりです。沖縄の劇場では爆笑も起きていました。それはすごく嬉しいしありがたいと思いました。戦争映画は嫌だな、怖いな、と敬遠している人にこそ観てほしいと思って作りました。ぜひ劇場で観て欲しいと思います。

池ノ辺 ありがとうございます。では、最後の質問になりますが、監督にとって映画とは何ですか。
平 僕にとっては、これ以外に興味がない。映画以外には興味がないです。
池ノ辺 それは生きることそのものだからということ?
平 単純に興味がないんです。興味がないというか、観るにしても作るにしても、好きなものが他にないですね。だからそれを仕事にできているのはすごく嬉しいですし、仕事にできなかったとしても映画が趣味だったと思います。「映画とは何か」と深く考えたことはないですし、そもそもなぜ好きになったかもわからない。何か言語化しようと思っても、できないですね。逆に、嫌いになる未来も想像できないです。
池ノ辺 じゃあ、今後もどんどん映画を作って、みんなに観てもらって、ということに勝る幸せはないですね。次の作品も、楽しみにしています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1989年8月29日生まれ、沖縄県出身。大学在学中に、沖縄県を拠点に活動する映画制作チーム、PROJECT9を立ち上げ、多くの自主映画を制作。主な作品に『アンボイナじゃ殺せない』(13)、『釘打ちのバラッド』(16)、ドラマ「パナウル王国物語」(20/日本民間放送連盟賞のテレビドラマ部門優秀賞受賞)などがある。22年に脚本・監督を務めた『ミラクルシティコザ』では、クリエイターの発掘・育成を目的とする映像コンテスト「未完成映画予告編大賞(MI-CAN)」も受賞。そのほかの作品に、堤 幸彦監督と共同監督の『STEP OUT にーにーのニライカナイ』(25)などがある。

1945年太平洋戦争末期。沖縄・伊江島で日本軍は米軍との激しい交戦の末に壊滅的な打撃を受けていた。宮崎から派兵された上官・山下一雄、地元沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンは敵の激しい銃撃に追い詰められ森の中に逃げ込み、大きなガジュマルの木の上へ登り身を潜める。太い枝に葉が生い茂るガジュマルの木はうってつけの隠れ場所となったが、木の下には仲間の死体が増え続け、敵軍陣地は日に日に拡大し近づいてくる。連絡手段もなく、援軍が現れるまで耐え凌ごうと彼らは終戦を知らぬまま2年もの間、木の上で“孤独な戦争”を続けていた。やがて極限状態に陥った二人は‥‥。
監督・脚本:平一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案 井上ひさし)
出演:堤真一、山田裕貴
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2025「木の上の軍隊」製作委員会
公開中