二人の俳優が示してくれた、この映画の「基準点」
池ノ辺 色々な監督の思いを、今度は演出を通して堤さんと山田さんが演じられていました。監督からみてお二人はいかがでしたか。
平 最高でした。もちろん僕は実際の日本兵など見たことはないんですが、二人が現場に入ってくると、もう、当時の日本兵が入ってきたとしか思えない。それだけ二人は確実に役を作って、その場を生きてくれました。現場で二人の芝居を見る時は楽しみでしょうがなかったですね。どんな芝居を持ってくるんだろうかとワクワクしながら見せてもらっていました。

池ノ辺 堤さんは役作りでかなりげっそりとされていました。
平 堤さんはすごく威厳がある芝居が似合うと思うんです。ご本人も威厳がありますし。それが全てを失った時、その威厳が崩れ去ってしまった時の堤さんが見たいと思ったんです。そうなった顔が想像しにくい、そういう人だからこそ、日本が負けた、この戦争が終わったと理解した時、彼はどんな顔をするのだろうと。

池ノ辺 山田さんは、沖縄の若い兵士の役ですね。
平 山田さんの“安慶名(あげな)”というキャラクターは、最初から軍人だった山下と違って、だんだん戦争というものを理解していき、だんだん軍人になっていくんです。最初の方で米兵を殺すシーンがあるんですけど、米兵は敵だ、人間ではないと教えられているので、人を殺してもそんなに実感がない。でも、敵兵の死体からその子どもの写真を見つけたりしていくうちに、自分が殺したのが人間だということを理解していく。同時に侵略されているということの意味を知り、敵の物資を奪い取りたいという欲求も強くなってくる。そういう中で、山下は生き延びるために生き、安慶名は戦うために生きているということが露呈して、二人の立ち位置も逆転していくんです。その変化を、二人は絶妙なバランスで演じてくれました。
池ノ辺 敵の残した缶詰を食べるところなどで、生きるということと食べるということがわかりやすく描かれていました。
平 まさに、「生きることは食べること」なんですよね。二人の芝居は、僕の中で曖昧だった基準点を、明確にしていってくれました。」


