Jun 23, 2025 interview

早川千絵 監督&主演・鈴木唯が語る 感受性という海を、ひとりで泳ぎきった少女の物語『ルノワール』

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強い感受性と豊かな想像力の海の中を漂う

池ノ辺 唯さんは監督が思い描いていたフキちゃんでしたか。

早川 それ以上でしたね。事細かに演出しなくても自然にやってくれるので、本当にやりやすかったです。

池ノ辺 フキちゃんは監督がモデルになっているんですか。

早川 そういうわけではなくて、もちろん当時の体験にインスピレーションを受けてはいるんですが、物語自体は完全なフィクションです。

池ノ辺 すごく感受性の強いフキちゃんが、いろんなことを経験してそれを受け止める。それは大人になって振り返ってみるとすごくわかる気がしました。周りからは子どもだって言われるけど、気持ちはもう大人なんだ、わかっているんだと。そんなフキちゃんを、唯さんは素敵に表現していました。唯さん自身は自分のことはどう思っているんですか。子ども?大人?

鈴木 子どもが大人の時もあるし、大人も子どもになる時があるので、子どもとか大人とかっていうのは、存在しないんじゃないかなと思っています。

池ノ辺 それはわかる気がします。唯さんの演技で、周りの大人たちが子どもみたいになったりしてましたよね。お母さん、お父さん役の石田ひかりさん、リリー・フランキーさんはどうでしたか。

鈴木 役者の先輩たちなので、お二人の演技を見ていたんですけど、すごく役になりきっていて、かっこいいなと思いました。自分もこんな演技ができたらいいなって。

早川 唯ちゃんは全く物おじしていなくて、本番に入る前の準備期間に、リリーさんと石田さんと、リハーサルというか、エチュード(即興劇)みたいなことをやってもらったんですけど、本当に堂々とやっていたね。しかも唯ちゃんは特にお芝居の訓練を受けたわけじゃないのに、すごい度胸と、度胸の前に、自分の中に確固とした世界観のある人なんだと感心しました。

池ノ辺 監督からそう言われて、唯さんとしてはどうですか。

鈴木 自分でも、どうしてこういう演技ができるのかはよくわからなくて‥‥。演技を意識しているわけじゃないですし、自分の感覚で演技をしているだけだから、意識するとかではなくて、ただやっているだけでした。

池ノ辺 それはすごいですよね。では、監督から見てのリリーさんと石田さんはどうでしたか。

早川 お二人は、そこに映っているだけで映画になってしまうような佇まいがあるんです。ですから撮影の時は本当に至福の時間でした。特にリリーさんはただ座っているとか立っているシーンが多かったんですが、それだけでもそのシーンを支配してしまうんですね。

鈴木 リリーさんは病弱な父役なんですが、佇まいというかその姿がすごく魅力的でした。

早川 消えてしまいそうなくらい死に近くて、その儚さにすごく説得力があって、逆に存在感があるんです。石田さんはずっと怒っているような不機嫌なお母さんなんですが、なぜか色っぽいんですよね。普通だったらあんなに怒っているキャラクターは好かれないだろうと思うんですが、それが人間らしくて魅力的に見えるというのは、石田さんが演じているからなんだろうと思いながら見ていました。