Jun 14, 2025 interview

関根光才 監督が語る 事実を物語にすることの重みと覚悟、だからこそ描けた『フロントライン』

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役者たちの凄みと、その上をいくリアル

池ノ辺 よくメインの役者4人が揃ってOKしてくれましたね(笑)。

関根 そうですね(笑)。そこは本当に幸運でした。何より、小栗旬という人が最初に受けてくれて、彼と一緒に歩めたということが大きかったですね。彼の持っているカリスマ性とか、人に対してきちんと責任をとるという覚悟の決め方、そうしたことが多くの人たちに対しての信頼感につながって、結果として4人だけでなく、素晴らしい人たちが集まって参加してくれました。ですから彼らのお芝居だけでもエンターテインメントとして十分に観るに値するものになったと思っています。

池ノ辺 もちろん皆さん素晴らしかったんですが、その中で特にびっくりしたのは窪塚洋介さん。こんな人でしたか? と思うような、今までとはちょっと違った役でしたね。

関根 確かに、彼が演じたDMATの医師である仙道のような、何かを忠実に遂行していこうとするようなキャラクターは、これまでの彼にはあまりないタイプの役柄だったかもしれません。でも窪塚さんは、やはりある種のカリスマ性というか、 “男が惚れる男” というような面もありますよね。実際にこの役のモデルになった先生も、その先生がいるから他のメンバーがついていく、というところがあるんですね。そのあたりは窪塚さんに通じるところがあって、そういうさまざまな重なりから、彼の良さが役として生きていたんじゃないかと思います。

池ノ辺 出演されている皆さんは実際にモデルになった方たちに会われたんですか?

関根 会っている方もいない方もいます。会っていなくても、増本さんが詳細にみなさんにインタビューをしていて資料として積み上げてくれていたので、それは皆さん目を通していると思います。小栗さんなどはモデルの先生に何度も会われていました。当時の現場の最前線を経験されたDMATの先生方には医療監修をお願いし、撮影現場にも来ていただいています。それこそ布団から車椅子への人の動かし方などから一緒にやっていただきました。そうした皆さんの協力が、現場の緊迫感を生み出しているんだと思います。

池ノ辺 厚労省の役人、立松を演じた松坂桃李さんも素晴らしい演技でしたね。

関根 彼もめちゃめちゃ上手いですよね。とてつもなく素直に1人の人間としてそれぞれの物事に向き合う、対峙してくれる、そうした彼の人柄が生きていたと思います。自分がどういう位置でそこに立っているのかをきっちりと把握して、セリフには専門用語も含まれますが、非常に自然に話していました。その一方で、立松自身の葛藤、揺れ、そうしたことも丁寧に表現していたと思います。

実は、立松のモデルになった実際の役人の方がいらっしゃるんですけど、この方がすごく面白い方なんです。劇中で立松は、いろいろ横断したり飛び越えたりしてドラスティックな決断もバンバンして何とか解決しようと動く人物なんですが、実際に政府の役人でそんな人がいるのかなと思うじゃないですか。ところが実際は映画よりもさらにアバンギャルドな決断をどんどんしていく。普通の人だったら尻込みしてしまうようなことでも「やりましょう」と決めていく人なんです。

池ノ辺 監督もお会いしたんですか。

関根 ええ。もう、そのまま映画にしたら、逆に信じてもらえないんじゃないかというような方でした(笑)。でも、そういう人がいるから、僕たちは今、こうして普通に生活して美味しいものを食べて笑ったりできているんだということをすごく感じました。そういうとんでもない人たちがいて、その人たちが、実は僕たちの生活を支えてくれているんですよね。

池ノ辺 大変な事実があって、それをどう演じるかという時に、そもそも本物、モデルがすごかったと。そこからあの役者さんたちのすごい迫力が生まれていたんですね。