Jun 14, 2025 interview

関根光才 監督が語る 事実を物語にすることの重みと覚悟、だからこそ描けた『フロントライン』

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2020年2月、豪華客船ダイヤモンド・プリンセスで日本初の新型コロナウイルスの集団感染が発生した。当時、日本にはウイルス災害専門の機関は存在せず、船内の救命活動に駆り出されたのは、災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」だった。彼らは地震や洪水などの災害スペシャリストだが、未知のウイルスに対応する経験を持たない。それでも目の前の命を救うため、その最前線での戦いに挑んだーー。

小栗旬をはじめ、松坂桃李、窪塚洋介、池松壮亮ら豪華キャスト陣を迎え、全世界が経験した新型コロナウイルスの集団感染との戦いを、事実に基づいた物語として描いた日本で初めての作品。企画・脚本・プロデュースは、多くの医療ドラマのほか、福島の原子力発電所の事故を描いたドラマ・シリーズ「THE DAYS」を手掛けた増本淳、監督はドキュメンタリー作品にも携わってきた関根光才が務める。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『フロントライン』の関根光才監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

「事実に基づいた物語」というエンターテインメントの重み

池ノ辺 最初はプロデューサーの増本淳さんからお話があったそうですが、その時はどのように受け止められたんですか。

関根 プロデューサーの増本さんは、「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」シリーズ (2008〜) などのさまざまな医療系のドラマを作られていて、さらに福島の原発事故を扱ったNetflixオリジナルのドラマ「THE DAYS」(2023)という作品も手掛けられ、かなり綿密に調査をされてそこから積み上げるといった手法の、クオリティの高い作品を作られていて、リスペクトを抱いていたんです。ですから、あの客船での感染症の出来事を映画化するというお話に、これは素晴らしい機会をいただいたなと、まずは思いました。

池ノ辺 そこから脚本を読まれたんですね。

関根 そうです。脚本を読んですごく驚きました。自分が知らないことがたくさん書かれていました。そこで当時は、自分も傍観者だったんだということをすごく感じたんです。つまり、自分たちは安全な場所にいて、テレビやパソコンの画面越しに、メディアによって報じられることを鵜呑みにして、その情報だけでいろいろなことを判断してしまっていたんだと。そこは反省しなければと思いましたし、その自戒の念も抱きつつも、話の展開が非常にスリリングで引き込まれていったということもあり、これはぜひやらせてくださいと伝えました。

池ノ辺 監督はドキュメンタリー映画も撮っていますから、増本さんはきっとそういうところを見て依頼しようと思ったんでしょうね。ただ今回は、「事実に基づいた物語」ということで、純粋なドキュメンタリーではなく、同時にエンターテインメント性も求められますよね。その難しさはあったんじゃないかと思うのですが。

関根 もちろんドキュメンタリーにも、劇映画にもそれぞれの良さがあって、自分はどちらも好きなのでどちらもやっているんですけど、ドキュメンタリーは、その事件なら事件に興味のある人が観にきてくれるというのが基本だと思うんです。興味がなければ、なかなか関心を持ちづらい。その点、エンターテインメントとして完成されたものであれば、そこに触れる裾野も広がるんじゃないか。そうした意味で、一人でも多くの人に触れてほしいと思いました。

新型コロナウイルスのパンデミックは、世界中の人たちが経験しました。亡くなった方も傷ついた方も多い。辛い思いをされた方も大勢いらっしゃると思います。社会の流れとしては「忘れたい」という欲求の方が強いのかもしれません。振り返らず前だけをみて、経済的にも右肩上がりに発展していく、そういう世界にしていきたいという欲求が強いのかもしれません。でも、あのような大きな出来事があった時、きちんと振り返って、話し合う、議論するといったことなしに、そのまま過ぎてしまうのは、あまりにもったいないと思うんです。もったいないという言い方が適切かはわからないのですが、せっかくの貴重な機会をみすみす失っているような感じがするんです。

おそらく、この先も、いつあのようなことが起きるかわからない。特に日本は災害国ですからね。今回はウイルスでしたけれど、また別の災厄に見舞われるかもしれない。そういう時に、自分たちがどうやってそれを乗り越えていくのか。それは単に生き延びるというだけでなく、人間として尊厳を持って生き生きと生きている、そういうところに行けるか。それは今回のような出来事、経験を生かしていくことが大事じゃないかと思うんです。

池ノ辺 確かにあの時は情報が少なくて、今回の映画を観てはじめて知ったことも多かった。本当に現場は凄まじかったんだろうなと思いました。コロナ禍はほんの少し前のことで生々しいということもあってか、どうしても引いてしまうという人もいるかもしれません。でも、この作品はエンターテイメントとしても完成されていて、何より役者がすごい。役者の皆さんがすごすぎて、これは観るしかないと思わされますね。