Jun 12, 2025 interview

李相日 監督が語る 役者という生き物の壮絶な生き様を描いた『国宝』

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火花散らす二人の役者の壮絶な美

池ノ辺 吉沢さんにお話をした時はどういう反応でしたか?

李 吉沢くん本人というよりは、彼のデビューからずっと帯同してきたマネージャーさんと懇意にしていたので、その方に吉沢くんでやりたいと伝えました。それで「ぜひ」と進み始めましたが、聞かされた本人が実際どう思ったのかは、いまだにはっきりとは聞いていないんです。

池ノ辺 これは、やりたいけど大変だぞ、と思ったでしょうね(笑)。

李 おそらく(笑)。

池ノ辺 舞も所作も、本当に素晴らしくて、あそこの域にまで到達するにはかなりの時間がかかっただろうと思いましたから。

李 そうですね。ほぼ1年半をかけて、あそこまでたどり着きました。その間、いろんなものをシャットアウトしてこれに集中してくれたというのは、なかなかできることじゃないですよね。

池ノ辺 観客が入っての舞台のシーンがありましたが、あれはエキストラの皆さんが観客として観ている前で舞っている、それを撮影しているんですよね。

李 そうですね。本人だけの舞台向けの場合は別に撮ったりもしていますが、観客が映り込む場面では、観客のいる状態で撮影しています。

池ノ辺 涙を拭っている方も映っていて、確かにあれを目の前で観たら感動するだろうなと思いました。私もエキストラに混じってあの場で観たかった(笑)。二度と観られないですよね。それともこの後公演などあるんですか。

李 もうやりたくないんじゃないですかね(笑)。やりたくないというよりできないといってましたね。あの時、あの瞬間だからできたと。

池ノ辺 横浜さんはどうでしたか。

李 彼は本当にストイックに、高いハードルに挑むということに躊躇しないですね。僕は “追求魔”と思っています(笑)。でも、あの追求魔ぶりがなければあの域までは行けないでしょうから、そこは最も信頼できる部分です。これは本人が言っていたのですが、今回のように自分とかけ離れたキャラクターを演じる機会はそう多くないので、それは難しさもあるけれどチャレンジとして貴重な機会だったと。ただ、僕は、あのキャラクターがそんなに彼とかけ離れていない、意外と似ているところもあるんじゃないか、と思ってオファーしたんですけどね。本人的には「自分はあんなに甘ったれじゃない」ということなんでしょうか(笑)。

池ノ辺 横浜さんは骨格的には男性的なものが強いので、舞う時にも見せ方にすごく気をつけて、ずいぶん勉強されたんだろうなと思いました。

李 確かに、肩の落とし方など、劇中でも謙さん演じる父から、直され意識させられていましたよね。元々が空手家のビシッとした立ち方をする人ですから、そこは大変だっただろうと思います。