憧れを仕事にできる幸せ
池ノ辺 そういえば、高校で試写イベントを行ったんですよね。
関 はい。試写会をして、その翌日に作品を観た高校生たちが体育館に集まっているところに、映画祭みたいにレッドカーペットが敷かれて、その中を出演した役者たちが歩くという。
池ノ辺 大騒ぎでしたでしょう(笑)。どなたが行かれたんですか。
関 永野芽郁さん、大泉洋さんのほか、鈴木仁くん、見上愛さん、森愁斗くんです。神尾楓珠くんは来られなかったんですけど。大泉さんなんか「洋〜」なんて呼び捨てにされてました(笑)。
池ノ辺 高校生向けの試写イベントで、監督としては高校生にどういったメッセージを伝えたいと思ったんですか。

関 特に高校生だけに観てほしいというのではないんです。本作では日高先生が絵画教室の先生でしたけど、みんな人生の中でいろんな先生に出会いますよね。中学、高校の先生はもちろん、塾の先生、部活の顧問、あるいはスポーツクラブの監督やコーチなど、考えてみたら、人は誰でも恩師と呼べるような人が一人くらいはいるんじゃないかなと、脚本を作っている時に思ったんです。そういう先生のことを、もしかしたら現役時代にはよくわからないかもしれないけれど、先生としてはこういう思いがあるんだということを少しでもわかってほしい。だから、今回高校生の皆さんに観てもらったんです。ただ、今は大人になった人にも、いろいろ先生から言われたかもしれないけれど、そこに先生の思いとか優しさとかがあったんじゃないかなということを感じてもらえたらいいなと思っているので、全世代の人に届けたいですね。
池ノ辺 特に10代の頃って、先生の言うことも、そもそも大人の言うことにも「何だよ、ウッセーよ」と思ったりしますからね(笑)。でもあの時に先生にうるさく言われていたから、今、何とかやっているということもあります。
関 だいたい、先生も別に変なことを言っているわけではないんですよね。日高先生もそうですよ。言い方が変だったり理不尽だったりはするかもしれませんが、「見たものをただ描けばいいんだ」と、それは正解ですよね。おそらく先生にしろ親にしろ、そうそう間違ったことは言っていないし、道に外れたことを言っているわけでもない。本当に当たり前のことを言っている。それは自分が親になってみるとよくわかります。でも子どもの頃ってどうしても反発することもあります。だからこれで中高生の現役の子たちに、先生の思いを理解しろというのはそもそも難しいのかもしれないと、今話していて改めて思いました(笑)。

池ノ辺 確かにそうですね(笑)。でも私たちは振り返ることができるので、その当時にはわからなかったことも、今なら見えてくるということはありますよね。東村先生が成長していく中で、日高先生をはじめとするいろんな人たちに助けられて今の先生があるんだということもすごくよくわかりました。私には何か自分への応援歌のようにも感じました。それは特に最後の芽郁さんのシーンによく表れていましたね。
関 最後のシーンは、自分つまり明子と日高先生が過ごしてきた時間、その積み重ねから彼女の中で出来上がったもので、すごく難しいと思うんだけど、いいシーンでした。

池ノ辺 伝わってきましたね。
監督は、本作で映画監督としては2作目で、ミュージックビデオをずいぶん作られてますよね。すごくかっこいいなと思って私も大好きなんですけど、やはり監督としてはもっと映画を撮りたいんですか。
関 そうですね。もともと僕が、映像って面白そうだな、すごいなと思ったきっかけは映画なんです。入り口は映画で、でもその途中で音楽映像も面白いと思って、そちらの道に進んだという流れです。だから映画に対する憧れみたいなものはすごくありますね。それがこの年になってようやくできるようになってきたというのは、すごくありがたいし嬉しいし幸せだと思います。

池ノ辺 そうすると監督にとって映画ってなんですか。
関 憧れですね。
池ノ辺 憧れていたものを仕事にできるというのはすごく素敵ですね。
関 それは本当にそうです。すごく光栄なことです。ここまで映画を2本作らせていただいて、今も新たに1本が進んでいますけど、本当にこの先何本作っても、憧れの中で作るんだろうなと思います。
池ノ辺 憧れへの向き合い方は、1本目の後、2本目を撮った後とそれぞれ違ってますか。
関 違ってきましたね。最初はとにかくこの脚本を1ミリでも面白くしようという感じで、脚本と向き合うということが多かったんですけど、2本、3本と進めていくと、観る人にどう届くかということをすごく考えられるようになりました。そういう意味では、少しずつ余裕が出てきたのかもしれません。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1976年生まれ。長野県出身。ミュージックビデオ、CM、TVドラマのディレクションを多数手がけつつ、フォトグラファー、アートディレクションなど活動は多岐にわたる。永野芽郁主演の『地獄の花園』(2021)を商業映画としては初監督し、ヒットに導いた。

漫画家になるという夢を持つ、ぐうたら高校生・明子。人気漫画家を目指していく彼女にはスパルタ絵画教師・日高先生との戦いと青春の記録があった。 先生が望んだ二人の未来、明子がついた許されない嘘。ずっと描くことができなかった9年間の日々が明かされる。
監督:関和亮
原作:東村アキコ「かくかくしかじか」(集英社マーガレットコミックス刊)
出演:永野芽郁、大泉洋、見上愛、畑芽育、鈴木仁、神尾楓珠、津田健次郎、有田哲平、MEGUMI、大森南朋
配給:ワーナー・ブラザース映画
©東村アキコ/集英社 ©︎2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
公開中
公式サイト kakushika-movie