May 19, 2025 interview

関和亮 監督が語る 原作者・東村アキコと紡いだ“実写化”の舞台裏『かくかくしかじか』

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異なるタイプの主演俳優ふたりの力

池ノ辺 本作では、芽郁さんと大泉洋さんが主役ですが、芽郁さんとは2021年の『地獄の花園』以来2回目ですよね。前回と比べてどうでしたか?

 実は前回は登場する役者さんが本当に多くて‥‥ですから、彼女は主演ではあったんですけどそこまで彼女だけに時間を割くわけにはいかなかったんです。でも今回は本当に作品全体の98%くらいに彼女が出ているので、じっくりと向き合うことができたと思います。年齢もキャリアも重ねてきて、役者としてのプロフェショナル度が上がっていると、僕個人としては感じました。

池ノ辺 いい役者になったと。

関 いや、僕は、役者について語れるほどの映画監督ではないので、それは恐れ多いというかおこがましいという感じですけど(笑)。ただ、見ていて間違いないし悩まない、もし悩んだら話に来てくれる。そういう意味で役者として確かに成長しているんだなと感じました。

池ノ辺 大泉さんはどうでしたか。

 大泉さんは始まる5秒くらい前まで、本当にくだらない話をずっとしているんです(笑)。それで場を盛り上げているということもあるんですけど、とにかくどうでもいいような話をしているのに、カメラの前に来た途端にキュッとスイッチが入る。逆に大泉さんは、そこに来るまでにはすごく悩まれているんだと思うんです。実際僕とも、どうしましょうかという話もしています。とにかくそこに至るまでに、いろんな方向性、トーン、それを全部考えて悩んで、でもカメラの前に立ったら、これだというものをパンと出してみせる。これはこれで芽郁ちゃんとはまた違ったタイプの俳優さんが揃ったなというのはすごく思いました。

池ノ辺 大泉さんは素晴らしい役者さんですが、困ったことはなかったですか?

 日高先生はヘルメットをかぶってバイクに乗っているんですけど、そのフィッティングが大変でした(笑)。

池ノ辺 それはヘルメットが似合わないとか?

 日高先生は原チャリに乗っているんですが、原作ではヘルメットをかぶっていなかったんです。でも、さすがに今はかぶらないわけにもいかず、でもフルフェイスはおかしいからとハーフにしたんです。それが、大泉さんの頭に合わないとか似合わないとかで、選ぶのにものすごく時間がかかったんです。あと、最初に大泉さんと打ち合わせをした時に、「スパルタ教師」というものをどう演じるかということを始めに話しました。そこはお互いのトーンを合わせることが重要だと思ったので。僕としてもただの暴力で痛々しくなっちゃうのも嫌だし本当に “嫌なやつ” になるのも違うと思っていたんです。結果として、怖いんだけど、怖くてハチャメチャなんだけど、どこか優しさがある、そういう日高先生を、大泉さんは作ってくれました。

池ノ辺 当時と今では価値観がずいぶん変わってしまったものもあるので、その辺りの表現は大変ですよね。ビールを勧めるシーンなんかも、あの頃だったからあり得たというか。

関 高校生にお酒を勧めるというシーンを入れていいのか、プロデューサー、原作者含めて話しました。ただ、あのシーンは原作の中ですごくいいシーンで、原作者としても残したい、僕としてもぜひ入れたいシーンだったので、思いを伝えて、汲み取っていただきました。制作のフジテレビさんもどうかな、許可してもらえるかなと思ったんですけど、むしろ「二人ともビールのCMに出てるけど、そこは大丈夫?」とそっちの心配でした(笑)。もちろん飲んではいないんですが、そこでの二人のやりとりもいいし、いかにも昭和な雰囲気もあって面白いシーンだと思います。

池ノ辺 あのシーンは2人の関係が見えて、良かったですね。