導かれるようにして集まったキャスト・スタッフ
池ノ辺 北村匠海くんも今までにない役柄でしたね。
古川 北村くんに関しては、彼が17歳のときに「仰げば尊し」(2016) という寺尾聰さんが主演のテレビドラマで出会ったのが最初です。その後、『東京リベンジャーズ』シリーズ (2021〜) で苦楽を共にして、彼がどんどんスターダムへとのし上がっていく中で、ヒーロー的な存在の作品に多く出演されていますから、何か自分自身もっといろいろ幅広くやってみたいという思いを聞いていました。彼に出会った時には、すでにこの作品はずっと構想としてありましたから、彼にとって何か面白いことができたらと思ったんです。それでほぼ構想が決まった時から、当て書きをしていて、出演するという約束を取り付けるより前に読んでもらっていました。

池ノ辺 寺尾さんもさすがというか、素晴らしい演技でしたね。
古川 寺尾さんに関しては、「仰げば尊し」でご一緒しただけなんですけど、金子の伯父星田の役も、寺尾さんで成立しないんだったらこの作品はやめようと思ったくらいに、寺尾さんをベースに考えていました。それで実際に形になるぞとなった時からずっと声がけしてたんですけど、6、7回断られたんです(笑)。

池ノ辺 丸山さんに飲み屋さんで出会ったことも含めて、何か一つの流れができていたんですね。
古川 そうしてみると、これは結果論ですが、この作品って、本当に縁で出来上がっているんです。「初めまして」のスタッフは一部だけで、俳優も現場での「初めまして」は真木よう子さんとオーディション組の方たちだけだったんです。オーディションも縁といえば縁ですしね。それ以外の皆さんは、一度はご一緒したことがある方たちです。
池ノ辺 じゃあ長編の初監督作品で、皆さん喜んでくれたでしょう。
古川 はい。名取裕子さんにおいては泣いて喜んでくださった。本当に感謝ですね。うちの近所の喫茶店で一人で、誰に求められたわけでもなく細々と書いていた脚本が、こんなとんでもない予算の形で劇場公開されることになって、ドームを埋めるアーティストの、SUPER EIGHTのメンバーが主演なんて、その頃は考えてもいなかったですし(笑)。

池ノ辺 スタッフの皆さんもよく知っている方たちなんですね。
古川 ヘアメイクの須田理恵さんは、この業界に入りたての1本目、2本目あたりからの、もう20年以上の付き合いです。カメラマンの江﨑朋生さんは『おくりびと』(2008) でお互いに助手の時に出会って、その時にはまともな会話すら交わしていなかったんですが、お互いに認識していて、そこからのちにスタッフとして再開したというところです。丸山さんに言われたんですよ。「あなたはみんなに愛されていることにもっと気づくべきですよ」ってね。
池ノ辺 そうだと思いますよ。監督の人柄が脚本でもわかります。
古川 こうしてみると、紆余曲折があって、この業界に入ってからのスタッフとして、助監督としてこれまで続けてきた半生があって、その中で出会った人や出来事、さまざまなものが、この作品に導かれて、今、形になっている、そんな気がするんです。
丸山 現場も本当にすごかったですよね。僕がこの役にどんどん深く行けたのは、そういう現場の空気が大きかったと思います。

古川 うちの組は、まず待ち時間がないんです。
池ノ辺 すぐ本番ですか。
古川 うちの現場では、その瞬間に起こったライブ、日常をどう切り取るかに僕らはずっと注力しているので、待ち時間が長くなってしまうと、そこから戻ってしまう。だからどれだけその待ち時間を短くするかが勝負なんですね。その点うちの技術パートのスタッフたちはすごい。だから僕が考える時間すらないんです(笑)。
池ノ辺 それって良かったということですよね。
古川 僕はもうちょっとゆっくり悩みたかったですけどね(笑)。
丸山 いい緊張感がありつつ和やかなムードで、抜くところは抜いて締めるところは締めるというメリハリが心地いい現場でしたね。俳優としてそこにいても途切れることなく集中できるような環境を整えてくださっていたという気がします。