俳優丸山隆平との出会い、丸山隆平が金子真司になるまで
池ノ辺 丸山隆平さんとは、この映画のキャスティングが決まる前にお会いしていたとか。
古川 そうなんです。たまたま飲み屋で一緒になって、お互いに「どうも」という感じで。僕は「深夜の連ドラ撮ってます」という感じで自己紹介したんです。そしたら丸山さんはいきなり周りのお客さんも巻き込んで即興芝居のゲームを始めたんです。「ちょっと見てください」と言って(笑)。
丸山 自分は芝居欲がめちゃくちゃ激しい人間なので、そこでひと公演、ご披露しました(笑)。

古川 もちろん僕も、アイドルとしての丸山さんはよく存じ上げていましたが、こんなにお芝居が好きなんだと、それはすごく印象に残りました。
池ノ辺 そのあとで、金子役にどうだろうとなったんですか。
古川 そうです、この作品がいよいよ形になるとなって、キャスティングをどうするかということをプロデューサーの人たちと話し合っていたんです。その時に丸山さんはどうかと一人のプロデューサーから言われたんです。でも、これが僕の長編映画の初挑戦で、彼の事務所に声をかけても果たして受けてもらえるか、大体皆さん忙しいタイトなスケジュールの中で仕事をしていて、という人たちですからね。それでもプロデューサーが聞いてみてくれるというので、お願いしました。そしたら、当時のチーフマネージャーさんがまず脚本を読んでくださって、返ってきた返事が「待ってました」でした。それまでいろんな負の情報が耳に入ってきて、こちらも「ずっと返事が来なかったらどうしよう」とかいろいろ考えていたんですが、脚本をお渡しして2、3日後にはそう返ってきたんです。その後、調整が必要なことなどはありましたけど、ひと月のうちには決まりました。丸山さん本人がやって来て、脚本のページを捲る前に「あ、あの時の」と思い出してくれたようです。
池ノ辺 それは、いろんな意味ですごいですね。
古川 そこからはもう、事務所あげて協力してくださってすんなり進みました。

池ノ辺 丸山さんにお願いしようという決め手は何だったんですか。
古川 酔っ払っている時でも、あんなに芝居大好きオーラを出されたらね(笑)。この人なら自分と四つに組んでやってくれそうだと思ったんです。僕は今回が長編映画の初監督となるので、そこは大事にしたいと思いました。
池ノ辺 丸山さんにとっては、これまで演じて来た役に比べて、この金子の役はかなり重いものだったんじゃないかと思うんですが、そのあたりで躊躇することはなかったんですか。
丸山 今までやったら、「あ、これまでやったことがない役がきた。やった ! がんばります」と、そんな感じでためらいなく引き受けていたかもしれない。これは違うな、そういうものではないなとは思いました。でも、この先も俳優人生を続けていこうと思うのなら、こういう役にちゃんと取り組めるようにならなければ、とも思いました。実際、自分の中ではギリギリ限界だなと思っていたところでもあったんです。俳優で飯を食っていこうというならこういう作品とちゃんと向き合ってキャッチして投げ返せるようじゃないとダメだなと、そういう意味ではこれはチャンスだと思いました。

池ノ辺 チャンスかもしれないけれど、脚本を読んで「これはキツい役だな」というのはなかったんですか。
丸山 いや、それはキツいですよ。
古川 確かに撮影中もキツそうではありましたね。
丸山 だって、この脚本って、11年間かけて書いて、タイミングを待って、ここで満を持してというものですよね。それを何ヵ月という制限された時間と予算の中でやるわけですから、キツくなかったら嘘ですよ。例え自分に圧倒的な技術とキャリアと経験があったとしても、それだけでは無理だと思う。そこにパッと来て役を自分に適当に繋いでも、移植した部分とか継ぎ目とかが見えると絶対バレるというか、監督はそういうところは見抜く人なんで、そういう生半可なところでこの役はできないと思いました。逆に、そこは監督を信頼できるので、自分がやっていることがズレていないかどうかを委ねられるんです。僕はただ自分が持ってきたものを提示して、現場ですり合わせて、その積み重ねでした。
池ノ辺 丸山さんがキツそうだなという時に、監督は何か声をかけたりしてたんですか。
古川 丸山さんとは、実際に撮影に入る前から、何度かプライベートで話をする機会があったんです。丸山さんとは、同郷なんですよ。僕のところから自転車で行けるくらいの距離にいた(笑)。丸山さんは、金子真司という男の41年分の人生、それに加えて僕自身の半生、精神性という意味でね。その僕の半生も想像してそのエッセンスを背負って、その上に金子を背負っていた。しかもトラブルだらけで、いろいろ背負っているのに背負っていないふりをしなければならない、そういう役柄ですよ。それを、自分はポッと来てできるような俳優じゃないからと、24時間背負い続けるんです。それは苦しいですよね。でも、そこで僕が何か言って、ふとそのことを忘れさせてしまうのは、丸山隆平という役者に対しての冒涜だと、僕は思ったんです。丸山さんは僕の目の前で、背負えるものを背負って、自分なりにそれを咀嚼して表現しようとしてくれている。僕が、この役にぜひにと願って、実際に僕が思い描いたとおりに、望んだとおりに正面からこの役に体当たりしてくれているわけですから。
丸山 自分が途中で何かを修正したりというような余裕もないし、それをするような技術もないということもわかっているから、とにかく監督を信じて、僕も自分自身が積み上げてきたものを出すということを純粋に続けていました。だから純度はすごく高いんだけど、危ういところもあったとは思います。

池ノ辺 すごい体験でしたね。ずっとひたすら金子で居続けたということですよね。
古川 あ、でも撮影中、1日だけ違う日がありました。撮休の3日間にアイドル業をやって、戻ってきた日は、「やべえ」と思いました(笑)。でも1日だけでしたね。翌日には役に戻って、そこからはこちらが見ていて苦しくなるくらい、自分で役の深みにハマっていってくれました。
池ノ辺 私もちょっと心配になりました。あんな役を演じていてアイドルで歌う時にはどうするんだろうと(笑)。
古川 ステージの立ち方がわからなかったと言ってましたよね(笑)。
丸山 そう、そう。「あれ? 俺、フツーの人として今立ってる。アイドルってどうやったっけ?」って(笑)。