「映画」という究極の探し物を求めて
池ノ辺 撮影も長かったということで、撮影した映像も大量にあるとなれば、編集も大変だったんじゃないですか。
佐藤 確かに膨大な量がありました。そもそも編集というのは、これという正解があるわけではない。A-B-Cと並んでいるのをA-C-Bとしても間違いじゃないんです。ただ、この映画にとって、どう並べるのがいいのか、何が最適か、そこを探る戦いです。ただそれは他の作品でも同じだと思いますけどね。
池ノ辺 実際には編集だけでなく、その素材からどこにエフェクトかけようかというのも考えるわけですよね。
佐藤 それでいうと、ビジュアルエフェクトと編集というのは切っても切れない関係だと思っています。密接につながっている。だから、ビジュアルエフェクトだけを担当している時には、編集に対して、ここはこうすればもっといいのにと、正直、思うこともありました。でも今回のように編集と併せての作業だと、ビジュアルエフェクトを考えつつ、編集としてどういうふうにうまく収めていったらいいのかということを考えながらできる。ストレスも減ります。






樋口 最初は、佐藤さんに視覚効果のテクニカルな編集の部分だけをやってもらっていたんですけど、そうすると前後の関係でドラマとしての編集を直さなきゃいけなくなる。考えてみればこの2つは作業の方向としては一緒ですから、そこはシームレスに融合していったという感じです。それと、これはたまたまなんですが、佐藤さんは予告編の編集なども経験していて編集力がある。それだったら編集も丸ごとひとまとめで管理してもらった方がいいだろうとなったんです。

池ノ辺 拝見してて、私は特撮か実写かわからなかったです。本物を撮りたいと監督はおっしゃってましたけど、すごくリアルですごく面白いエンターテインメントでした。今回出演されている役者の皆さん、それぞれ本当に素晴らしかったんですけど、中でも運転士役ののんさん、キャスティングされた当初は驚いたんですけど、実際に作品を観たらすごく良かった。彼女を運転士役に起用したのはどうしてですか。
樋口 以前からコマーシャルとか美術館のナレーションなどで一緒に仕事をしてまして。自分は昔から結構彼女を撮っているんですよ。主には役者としてですけど。あと、彼女が初めて監督した『Ribbon』(2022) という映画の時に現場に入っていて、特撮部分を担当しました。最初はCGで、という話もあったんですが、せっかくの初監督作品なんだから、本人が納得する素材を一緒に撮った方がいいだろうということで、素材撮りの現場も用意しました。その時に演出家としての彼女を見ることができた。そうしたら、普段の演じる時の彼女よりも、自分はこういうことを考えている、これを誰かに伝えなきゃいけない、そういう強い意思が表に出てきていて、その一本筋の通った張り詰めた姿が良かったんですね。芝居をする彼女とは全く違う顔を見せていた。それを見た時に、彼女にこういう側面があるのだったら、こういう人が乗務員として中にいた方が、事の重大さは伝わるんじゃないかと思ったんです。

池ノ辺 なるほど、そういう経緯からのキャスティングだったんですね。それは十分に伝わりました。では最後の質問です。これは皆さんにいつも聞いている質問ですが、監督にとって、佐藤さんにとって、映画ってなんですか。
樋口 ああ、よかった。ここで「ズバリ見どころは?」と聞かれるのかと(笑)。映画は、自分にとって唯一の就職先です。自分は、普通の社会に馴染めない人間で、でもそんな社会からはみ出した自分を受け入れてくれた唯一の場所‥‥受け皿が映画の現場でした。そしてその頃の日本映画は、今はもちろん違うでしょうけど、どん底だったんです。だからこそ、こんな自分を受け入れてくれたんだろうとも思うんです。だとしたら、日本で作った、日本でしか作れない映画を、1人でも多くの人に観てほしい、それがあの時自分を拾ってくれた日本映画に対する恩返しではないかとこれまで続けてぐるぐる回って、今に至っているという感じです。

池ノ辺 佐藤さんはいかがですか。
佐藤 「映画ってなんだろうな」といつも探している探し物みたいな感じですね。僕自身が関わった作品でも、「これを作ったら満足だ」といえるような究極の作品は未だないですし、他のいろんな作品を観ても、「これはすごい」と思っても、もっとすごいものがどんどん出てくる。そういう意味では、いつも探している探し物、そんな感じを持っています。
池ノ辺 これからも、さらに素晴らしい作品を楽しみにしています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
特撮、アニメ、実写と幅広く活躍する映画監督。『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)『日本沈没』(2006)。犬童一心監督と共同でメガホンをとった「のぼうの城」(2012)で日本アカデミー賞優秀監督賞受賞。 『シン・ゴジラ』 (2016) では第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。
VFXスーパーバイザー ・ 特撮監督、映像編集者
IMAGICAの特撮グループ、イマージュのVFX部門・Motor/lieZなどを経て、自身のVFXスタジオ・TMA1を設立する。共同編集を手掛けた『シン・ゴジラ』(2016)で、第40回日本アカデミー賞の最優秀編集賞を受賞。『シン・ウルトラマン』( (2022) 、『シン・仮面ライダー』((2023)

はやぶさ60号は今日も、新青森から東京へ向けて定刻どおり出発した。高市はいつもと変わらぬ想いで車掌としてお客さまを迎える。そんな中、1本の緊迫した電話が入る。その内容は、はやぶさ60号に爆弾を仕掛けたというもの。新幹線の時速が100kmを下回れば、即座に爆発する‥‥。高市は、極限の状況の中、乗客を守り、爆破を回避すべく奔走することになる。犯人が爆弾の解除料として要求して来たのは、1,000億円。爆発だけでなく、さまざまな窮地と混乱に直面することになる乗務員と乗客たち。鉄道人たち、政府と警察、さらに国民も巻き込み、ギリギリの攻防戦が繰り広げられていく。極限の状況下でぶつかり合う思惑と正義、職業人としての矜持と人間としての本能。はやぶさ60号は、そして日本は、この危機を乗り越えることができるのか。
監督:樋口真嗣
原作:東映映画「新幹線大爆破」(監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助/佐藤純彌、1975年作品)
出演:草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工
Netflixにて独占配信中
作品ページ netflix.com/新幹線大爆破