Apr 26, 2025 interview

豊島圭介監督が語る お客さんが感動するためには何をすればいいか、そこから考えて作った『#真相をお話しします』

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ミュージシャンとアイドル、主役二人の輝き

池ノ辺 脚本を読んだ時はどう思われました?

豊島 僕が参加した時には台本は第6稿くらいまで進んでいました。そこにはもう今のエンディングが盛り込まれていて、それを読んだ時に、こういうアイデアがあるんだったらこのオムニバスの小説を1本の映画にできると確信できたんです。そして僕がこれを読んで感動したラストに向かって、僕が感動したようにお客さんが感動するためには何をすればいいか、そこから考えて作っていきました。

池ノ辺 主役の2人もすごいですよね。有名ミュージシャンの大森元貴さんとアイドルの菊池風磨さん。

豊島 大森くんは今回お芝居がほぼ初めてということでしたが、彼がどういうタイプの俳優なのかがわかれば、どういう道のりを作って一緒に歩いていったらいいかがわかるので、まずはどういうタイプの俳優かを知ろうと思いました。一方、風磨くんについては僕はもう何年も前から知っていましたから、風磨くんがどういう人なのかはある程度わかっています。そこで、風磨くんと、さらに中条あやみさんの力も借りて、クランクインの前に数日間のワークショップをやることにしたんです。

池ノ辺 大森さんと風磨さんと中条さんの3人で?

豊島 そうです。もともと演劇系の先生が俳優を育てるためにやるような演劇ゲームがあるんです。同じ言葉だけを使ってお芝居をしてみるとか、そういう演技のゲームです。これを一緒にやることで、まずは普通に仲良くなれます。一緒に時間を使って一つのことをやりますから。そしてその人の性格も見えてくるんです。

例えば、大森くんは負けん気が強いんだなとか、頭の回転がむちゃくちゃ速いんだとか、風磨くんはどこまでが芝居かまだよくわからないなとか、中条さんはすごいプラスのオーラを持っていてしかもそこに嘘がないなとか、そういうことが見えてきます。それは僕がわかるだけじゃなくて、参加した彼らもお互いの性格がわかってくる。そうすると、クランクインの時には、すでにチームになっているわけです。これは今回だけじゃなくて、これまでも、初めての人に対してはこうしたワークショップをやってきました。初めましてでいきなりクランクインというのはやはり難しいですからね。今回もそれでかなりうまくいったと思います。

池ノ辺 結果、大森さんはどういう俳優でしたか。

豊島 僕は彼のライブをいくつか見たんですが、自己演出みたいなところがめちゃくちゃ上手い人です。彼らは単に同じように演奏するライブをやるだけじゃなくて、いろんな路線のものがあって、いわゆるバンドっぽいライブもあれば演劇、ミュージカルのようなもの、あるいはフリーセッションのようなものもある。そのつどライブの顔を変えて演奏のスタイルも変えるということをしているんです。特に最近のライブツアー「The White Lounge」はまさにお芝居、ミュージカルですよね。だから彼が芝居は上手だろうということはわかっていました。だからあとは、演技の距離感を掴んでもらえばいいと思ったんです。つまり、舞台の距離感と映像的な距離感では違う。お客さんの方を見るのか、カメラで撮るのか、声の大きさも違ってくる。そうした調整をすればいいだけだと思いました。

基本的に僕らの仕事というのは、それぞれの俳優に対して、この人には何と言ったら伝わるだろうか、どういうアプローチをしたらいいだろうか、それを探すことだと思っています。「もっとテンションを上げてくれ」という言い方で伝わる人もいれば「今のあなたの感情としては、どうしても泣きたくないんだけれど溢れそうな涙を必死で堪えているんだ」というような感情の面から話をする必要のある人もいる。あるいは「右に行って左に行ってそこからまた右に行って」というので伝わる場合もある。

池ノ辺 大森さんの場合はどうだったんですか?

豊島 大森くんの場合は、あまり細かいことを言わなくても、感情の方から話をしても伝わったし、「もう少し近くにいる人に話しかける感じで」というような具体的な指示でも伝わったし、かなりスムーズに話が伝わるタイプの俳優だなと思いました。

池ノ辺 じゃあ、ほぼ初めてのお芝居だったけれど勘もいいし頭もいいと。

豊島 素人ではなく、まさに俳優でした(笑)。確かに最初の頃は、俳優の作法みたいなところを掴むまではちょっと大変だったかもしれないです。俳優は普通に「この人物の造形はどんなだろうか」とか「ここの感情はどうだろう」とか、「このシーンの目的とゴールはどうなっているのか」、そんなことを考えているんですけど、彼はそれもすぐに自然にできていました。苦労したとすれば、最初の頃、予定表の見方がよくわからず、段取りが思っていたのと違って戸惑っていたくらいでしょうか。

池ノ辺 実際素晴らしい演技でした。映画は初めてとは思えなかった。菊池さんの方は先ほど言われたように演技しているのか、していないのかわからない飄々とした感じで、その2人が一緒に演じることで起きる化学反応のようなものもあって、面白かったです。

豊島 風磨くんのお芝居は、一見いつもの感じで、いつもの引き出しでやっているのかなと、現場でも最初そう思って見ていたんです。でもよく見ると今までしたことのない表情をたくさん見せていました。彼の役について、撮影に入る前に今回はアイドルのアイデンティティーは降ろして、ドロドロでボロボロの桐山をやってほしい、そう言ったんです。だから彼はそういう準備をしていたんですね。

僕がいいなと思う芝居というのは、単純な形容詞で表現できないような芝居なんです。悲しい、嬉しい、怒っているといった、単純に言い表せるものじゃなくて、怒っているのと悲しいの間とか、そういう言葉にし難いものの表現に感動するんですけど、今回の風磨くんにはそういう顔がいっぱいあったんです。