Feb 07, 2025 interview

クリス・サンダース監督が語る 手描きの絵と最先端の技術の融合によって生まれた『野生の島のロズ』

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「プログラムを超えて生きる」ことの意味

池ノ辺 この作品は、子どもたちも喜びそうな映像の美しさや、かわいらしいキャラクター、そしてシンプルな物語になっていますが、たとえばいろんな種類の動物が一緒に暮らしていても戦争をしないとか、あるいはロボット、AIとどうやって共存するかなど、すごく深いところも語ってくれていますね。

サンダース この映画の原作者であるピーター・ブラウンは、この作品にさまざまなテーマを盛り込んでいます。それはどれも普遍性のあるテーマだったのですが、中でも僕の心に響いたのは、「プログラムを超えて生きる」ということだったんです。僕たちはロボットではないですが、誰でも自分の中にロズと同じようにプログラミングされている部分がある。それはこれまで教わったことだったり、経験によって得られたものだったり、さまざまです。そしてそこを逸脱するのはとても難しいんです。でも、そのプログラムを超えなければいけない時がある。生きていれば誰でもあるのではでしょうか。ロズは、キラリを育てる時、自分の中に全くプログラムされていないことをしなければなりませんでした。何をどうしていいか全くわからない中で、試行錯誤、手探りでやっていくしかなかったわけです。手探りですよね。でも考えてみたら、子育てはそういうものだし、そもそも僕たちが生きていくこと自体、予想のつかない中で手探りでなんとかやっていく。そうやって今あるプログラム、それまでの自分を超えることによって、僕たちは成長したり変わったりできるのだと思います。それってすごく美しいことだと思って、そこは大切に描きたいと思いました。

池ノ辺 この作品は小さなお子さんたちもご覧になると思うのですが、大人になって振り返った時、彼らにとってこの映画は、とても大切なものになっているだろうなと思いました。 

サンダース そう思ってもらえるのはすごく嬉しいです。ありがとうございます。「この作品に関わるということは、僕らにとっていまだかつてない貴重な経験であり、生涯に一度しかない経験から生まれた作品になっている」とプロデューサーが言っていたんですが、僕もその通りだと思っています。

池ノ辺 本当に心に残る映画だと思います。さて、最後の質問です。監督にとって、表現すること、映画とはなんですか。

サンダース 難しいことを聞きますね(笑)。一言で言うなら、インスピレーションをもたらす物語かな。良質な物語ほど素晴らしいものはないと思うし、そもそも人類というのはストーリーとともにある、何かを物語るようにできているんじゃないかと思います。ストーリーというのは我々の経験の本質だという人がいますが、なるほどその通りだと僕も思います。そして映画というのは、体験を分かち合うことができるんです。自分が直に経験していなくても、映画を観ることによってそれを知り、理解することはできる。逆に自らの経験を映像にして観てもらうことで、知ってもらい理解してもらうこともできる。僕はそんな映画の持つ力が好きですね。それが映画の美しいところだと思います。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
クリス・サンダースChris Sanders

監督

1962年3月12日生まれ、アメリカ出身。カリフォルニア芸術大学を卒業後、ウォルト・ディズニー・カンパニーでストーリー・アーティストとして、『美女と野獣』(91)、『アラジン』(92)、『ライオン・キング』(94)と立て続けに 大ヒット作品に携わった後、『ムーラン』(98)で脚本を担当。『リロ&スティッチ』 (02)では、ディーン・デュボアと共に監督、脚本を務め、スティッチの声優も担当した。2006年にディズニーを離れてドリームワークス・アニメーションに加わり、再びディーン・デュボアと共同で『ヒックとドラゴン』(10)の監督、脚本を担当。同シリーズを世界的大ヒットに導いた。その他の代表作に『クルードさんちのはじめての冒険』(13)、『野性の呼び声』(20)など。

作品情報
映画『野生の島のロズ』

無人島に漂着した最新型アシスト・ロボットのロズは、キツネのチャッカリとフクロネズミのピンクシッポの協力のもと、雁のひな鳥キラリを育てるうち、心が芽生えはじめる。ロズの優しさに触れ、怪物として彼女を拒絶していた動物たちも、次第に島の“家族”として受け入れていく。いつしか島はロズにとっての“家”となっていくのだった。渡り鳥として巣立っていくキラリを見送り、動物たちと共に厳しい冬を越えた頃、回収ロボットが彼女を探しにやってくる。

監督・脚本:クリス・サンダース

声の出演:ルピタ・ニョンゴ、ペドロ・パスカル、キャサリン・オハラ、ビル・ナイ、キット・コナー、ステファニー・シュウほか

日本語吹替えキャスト:綾瀬はるか、柄本佑、鈴木福、いとうまい子、千葉繁、種﨑敦美、山本高広、滝知史、田中美央、濱﨑司

配給:東宝東和、ギャガ

©2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

公開中

公式サイト roz-movie

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。最新作は『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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