手描きの絵と最先端の技術の融合によって生まれたリアルな世界
池ノ辺 この作品を作るにあたって監督がこだわったのはどういうところですか。
サンダース まずスタイルとして、全体的に洗練されたものになるよう心がけました。人の手によって描かれた絵も多用しています。つまり伝統的な職人の技と最先端のデジタル技術を融合させているのです。僕自身、手描きの時代からアニメーションの世界に入っているので、手描きの絵の力をよく理解しているつもりです。手で描かれているからこそ観るものの感情を揺さぶる、そうした力があると思うのです。
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池ノ辺 動物たちがかわいいのに本物のような動きをしていました。
サンダース 生き物たちも、ちょっと擬人化してはいるけれど、本物の自然界にいるような動物に見えるように作っています。狐なら狐の、ウサギならウサギの、実際の動きにかなり近くなるように描いています。あと、天候にも非常にこだわりました。実はこの映画の中で、ピーカンの日はないんです。ほとんど曇っていたり雨が降っていたりしています。本編中、浜辺で雁のひな鳥であるキラリに、最年長の雁のリーダー、クビナガが会いに来るシーンがあります。この時も、空も、背景にある崖もなんだか灰色で、それによってリアルな雰囲気を醸し出しています。これは僕が常々思っていたことなんですが、よく、キャラクターの感情と天候をマッチさせるような描き方がありますよね。嬉しい時に空も晴れて、というような感じで。それが僕にはちょっと嘘くさくて、違和感を覚えていたんです。だからここではあえて、そうならないようにしてみました。
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池ノ辺 なるほど!宮﨑駿監督の作品が好きだと伺ったんですが、それは今回の作品にも影響していますか。
サンダース 昨年アメリカで出版された“ The Art of DreamWorks The Wild Robot ” という本があるんですが、この表紙の画は僕が描いたものです。これはまさに、宮﨑監督の作品に出てくるような瞬間をこの映画にもたらしたいと思い、宮﨑作品にインスピレーションを得て描いたものです。僕に限らず、アニメ業界で仕事をしている人たちは、皆さん宮﨑監督とその作品に大きなインスピレーションを得ていると思います。それはキャラクター造形であったり、アニメの技術であったり、あるいはタイミングや画角、カット割りなど多岐にわたるものです。宮﨑監督は全てが素晴らしいんですけど、僕が特にすごいと思っているのは、彼の作品が持つリアリティ、信憑性です。描いている世界がちょっとファンタジックな設定であったとしても、そこにある種のリアリティと信憑性が感じられるんです。それがどこから来るのだろうと考えた時に、手描きの絵の力があると思い至ったんです。だから、本作では主に背景などを人の手によって描いています。それが、たとえファンタジックな想像の世界の物語だとしても、観るものにリアリティをもたらしてくれると思っています。
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