Jan 23, 2025 interview

小泉堯史 監督が語る 『雪の花 ―ともに在りて―』 ー師匠・黒澤明監督の思い出

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脚本とキャストで映画の出来はほぼ決まる

池ノ辺 『雪の花 ―ともに在りて―』の話を聞かせてください。主人公の笠原良策役である松坂桃李さん、よかったですね。

小泉 ええ、本当にすばらしかった。これは黒澤さんがおっしゃっていたことですが、映画で大事なのは脚本とキャスティングだと。この二つは手放しちゃダメだよとよく言われました。ですから、この人だったらこの作品を支えてくれる、という人を自分できちんと見つけなければ失敗します。そこから松坂さんに会って、この役をお願いして本当によかったと思いました。だから毎日の撮影が楽しかったですよ。

池ノ辺 それは何よりですね。芳根京子さんも可愛らしくて素敵でした。

小泉 芳根さんは『峠 最後のサムライ』(2022)で少しご一緒したんです。俳優さんって、自分が喋ったり動いたりというより、リアクション、その時その時にどう受け取ってどう反応するか、というのが大事なんですね。溝口(健二)さんが言っていた「反射」というものです。彼女はそれが非常によくできる女優さんなんです。それで「この人なら」と思ってお願いしました。それに、立ち回りも太鼓も初めてということでしたが、よく稽古してくれました。

池ノ辺 そして、役所広司さんは、もう安定の役者さんですね。松坂さんが役所さんを見て「 “赤ひげ” がいる」とおっしゃっていたそうです。

小泉 それは嬉しいですね。僕は黒澤さんの『赤ひげ』(1965)を観てこの世界に行こうと思ったくらいですから。

池ノ辺 役者さん皆さんの役柄がピッタリで、非常に丁寧に作られたとても素晴らしい作品でした。監督としては、この作品の出来はいかがですか。

小泉 それはもうお客さんが決めてくれるものです。自分では目一杯やったし、慣れているスタッフも入ってくれていますから、そこは本当に安心でした。衣装でも小道具でも装飾でも、俳優さんが演じやすいように整えること。僕らが努力してできることはそういうところです。特に時代物はそれがうまくできれば俳優さんたちもその人物に入り込みやすくなる。そういう場をスタッフたちがきっちりとつくってくれるというのは頼もしいし嬉しいです。監督は「よーい、はい」と「カット」だけ言っていればOKですから(笑)。

池ノ辺 そんなことはないですよ(笑)。さて、それでは最後の質問になります。監督にとって映画ってなんですか。

小泉 黒澤さんだったらなんていうと思います?「映画は映画だよ」って言って終わりですよ(笑)。

池ノ辺 小泉監督にとってはいかがですか。

小泉 黒澤さんに出会って、映画に出会ったわけですが、映画を通して自分の好きな人物に会えるという、そういう楽しみが大きいですね。例えば岡田資中将(『明日への遺言』)や河井継之助(『峠』)、今回の笠原良策にしてもそうです。そういう人物に会って、その人物を少しでももっと知りたいと思う、一生懸命知ろうとする、そして映画を作ること、観ることで、その人物が自分の中で生き続けてくれる。そうしたことが、映画の一番の楽しみじゃないでしょうか。

池ノ辺 では、映画を観続けていく私たちのためにも、これからもそういう楽しみを増やしていってください。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
小泉 堯史(こいずみ たかし)

監督

1944年生まれ。茨城県水戸市出身。70年に黒澤プロダクションに参加し、黒澤明監督に師事。『影武者』(80)、『乱』(85)、『夢』(90)、『八月の狂詩曲』(91)、『まあだだよ』(93)で助監督を務めた。黒澤監督の遺作脚本『雨あがる』(00)にて監督デビュー。この作品で第56回ヴェネチア国際映画祭緑の獅子賞、および第24回日本アカデミー賞において最優秀作品賞をはじめとする8部門で最優秀賞を受賞する。その後、『阿弥陀堂だより』(02)、『博士の愛した数式』(06)、『明日への遺言』(08)、『蜩ノ記』(14)、『峠 最後のサムライ』(22)を監督。また『散り椿』(18/木村大作監督)では脚本を務めた。これまでに日本アカデミー賞では優秀監督賞を4度、優秀脚本賞を2度受賞しているほか、平成26年度芸術選奨文化科学大臣賞、第39回報知映画賞監督賞など数々の賞を受賞している。

作品情報
映画『雪の花 ―ともに在りて―』

天然痘の絶対確実な予防法が異国から伝わったと知った福井藩の町医者・笠原良策は、京都の蘭方医・日野鼎哉に教えを請い、ま私財をなげうち種痘の苗を福井に持ち込む。妻・千穂に支えされながら、自らの利益を顧みずに、天然痘に侵された日本を救おうと立ち上がった、実在の知られざる町医者・笠原良策が、いま問いかける[生きる希望]とは。

監督:小泉堯史

原作:吉村昭「雪の花」(新潮文庫刊)

出演:松坂桃李、芳根京子、三浦貴大、宇野祥平、沖原一生、坂東龍汰、三木理紗子、新井美羽、串田和美、矢島健一、渡辺哲、益岡徹、山本學、吉岡秀隆、役所広司

配給:松竹

©2025映画「雪の花」製作委員会

公開中

公式サイト movies.shochiku.co.jp/yukinohana

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。最新作は『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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