その先にある新しいしあわせのかたち
池ノ辺 この作品のテーマの一つとして、コロナ禍を経て次の時代に行くということがあるのかなと思ったんですが。
岸 宮藤さんの脚本の第1稿を読ませてもらった時に、そこに「思い出のアルバム」の歌が入っていたんです。その中に「思い出してごらん」という歌詞がありますよね。僕らって、いろんなことを忘れちゃうんですよ。コロナ禍のシーンでも、たった数年前の出来事なのに、マスクってどのタイミングで手作りマスクが出てきたんだっけとかね。それと同じようにあの震災のことも、もちろん大きなイメージとしては持っているかもしれないけれど、日々の生活があって生きていくうちに、片隅に追いやられていくこともある。思い出さなければいけないんですよ。でもそれは声高にいうことでもない。そのバランスの中で「思い出のアルバム」を持ってきて作品の中に織り込んでいくという、宮藤さんの脚本はその辺が絶品でしたから、すごいなと思いました。
池ノ辺 本作では、主人公がコロナ禍をきっかけに田舎に住んでみて、そこでいろんな人間関係があってと、ある意味ローカルな物語ですが、一方で震災についての話も描かれていました。
岸 震災というワードで多くの人が連想するのは報道で流れていたあの津波の映像かもしれない。でも、あれから14年経って、被災者の人たちもそれぞれ違う生き方をしています。ドラマや映画があの震災を取り上げたりしますけど、現実には一つの主張やメッセージには決してならなくて、みんなそれぞれにある。違ってていいんだと思います。宮藤さんがこの脚本で伝えたかったことはそういうことだと思うし、僕もそこを言いたかった。
池ノ辺 この映画を通して、新しい形のハッピーエンドというものをみた気がしましたし、そこにすごく勇気づけられました。監督にとっての新しい幸せの形ってどういうものですか。
岸 この作品だけじゃないんですが、はっきりとは言っていなくても、自分の映画を通して僕が本当に伝えたいこと、感じてほしいことというのがあります。それが観る人に伝わっている時に、すごく嬉しいし幸せです。特に今回の作品では、本当に笑って笑って、最後にホロッとしていただければいいなと思っています。
池ノ辺 そんな監督にとって、映画とはなんでしょうか。
岸 映画を通して、新しい世界を届けたい。僕の解釈した、あるいは原作者や脚本家たちの解釈した新しい世界を届けたい。こういう世界があるんだということを、自分は映画を作りながら知っていきたいし、お客さんにもその世界を知ってほしい、そう思っています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1964年、山形県出身。バラエティやドキュメンタリー番組を手掛けた後、ドキュメンタリードラマの演出をスタート。東日本大震災で津波の被害を受けた人々の再生を描いた「ラジオ」(13)は、国際エミー賞のテレビ映画部門にノミネートされた。『二重生活』(16)で映画監督としてデビュー。寺山修司の小説を映画化した『あゝ、荒野』(17)で第60回ブルーリボン賞作品賞、第30回日刊スポーツ映画大賞作品賞、第42回報知映画賞作品賞ほか多数の賞を受賞。『前科者』(22)では犯罪者の社会復帰の難しさ、第36回東京国際映画祭最優秀監督賞と観客賞を受賞した『正欲』(23)では多様性の光と影を描いた。一貫して阻害された人や異端とされる人々の生き様にフォーカスしている。
新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた 2020年。リモートワークを機に東京の⼤企業に勤める釣り好きの晋作は、4LDK・家賃6万円の神物件に⼀⽬惚れ。何より海が近くて⼤好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の⽇々を過ごすが、東京から来たよそ者の晋作に、町の⼈たちは気が気でない。⼀癖も⼆癖もある地元⺠の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と⾏動⼒でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの⼈⽣が待っていた⁈
監督:岸善幸
脚本:宮藤官九郎
原作:楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社)
出演:菅⽥将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
©楡周平/講談社 ©2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
公開中
公式サイト sunsetsunrise-movie