Jan 22, 2025 interview

岸善幸 監督が語る 宮藤官九郎ワールドで新しいしあわせのかたちを描いた『サンセット・サンライズ』

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俳優菅田将暉でなければできなかった

池ノ辺 宮藤さんの脚本も、もちろん素晴らしかったですが、出演者の皆さんも素晴らしかったですね。キャスティングがぴったりでした。あれは監督の提案ですか。

岸 僕は僕の視点で原作なり脚本なりを読んでいますけど、プロデューサーはまた別の、全体からの視点でイメージするところがあったのだと思います。そこからこの人はどうだろうか、という提案がありました。主演の菅田将暉さんはじめ、多くはその提案に僕が乗ったというところですね。

池ノ辺 菅田さんは、監督が声をかけられたんですか。

岸 ええ。ただ、最近は『Cloud クラウド』(2024) のような作品に出演している菅田さんをコメディに持ってくるのってどうなの?引き受けてくれるだろうか、と思いつつ声をかけました。快く受けてくれたのでよかったです。

池ノ辺 楽しそうに演じられていましたよね。魚とか本当に美味しそうに食べていましたし(笑)。

岸 菅田さんの演じた西尾晋作は、かなり難しい役だったと思うんです。もちろん皆さんそれぞれ難しさはあるんですけど、晋作はたぶん並の俳優では演じられなかったと思います。

池ノ辺 菅田さんだからこそできたと。

 完成した作品を観て、自分でも変な言い方ですが、作り手であることを一旦忘れて客観的になって笑えましたから、やっぱり菅田将暉はすごいなと思ったわけです。なんてことのないサラリーマンが、東京から三陸に行って、そこでいろんな衝突を起こすんだけれど、最終的には自分の希望、自分の考える「当たり前」を通す。これはなかなか難しいことですよ。周りを納得させることも難しい。本当にいいキャスティングだったと思います。

池ノ辺 お魚が美味しそうでした(笑)。あれは毎回獲って、誰かが捌いてたんですよね。

岸 井上真央さんと菅田さんは、自分で捌いています。そのために練習もしてもらいました。

池ノ辺 それはすごい。

岸 特に井上さんには、アジのなめろうをつくりながらの演技をなんとしてもやってほしかったんです。結果としてすごい演技と魚捌きが相まって、素晴らしいシーンになりました。あれは僕がものすごく気に入っているシーンです。

池ノ辺 井上さんの役はかわいらしくて、綺麗で素敵でした。

 綺麗でしたね。表情も素晴らしかったですし。基本的には井上さんにお任せしていたんですが、ラストのシーンは事前にいろいろ相談して撮りました。笑うことの多かった現場でしたが、あのシーンは周りも泣いていました。