ある冬の日。竹沢家の四姉妹が久しぶりに集まった。生け花を教える長女・綱子、専業主婦の次女・巻子、図書館で司書として働く三女・滝子、そしてウエイトレスの四女・咲子。滝子の話では、母・ふじと暮らす老齢の父・恒太郎には愛人と子どもがいるという。信じられないとは思いつつ、母の耳には入れないことを誓い合う4人。しかしこの騒ぎをきっかけに、女性たちの日常に潜む、さまざまな葛藤や秘密が明るみに出る。
向田邦子の脚本によるNHKドラマ「阿修羅のごとく」。45年の時を経ても、今なお名作として語り継がれているこの名作が、向田邦子脚本、是枝裕和の監督・脚色によりNetflixから蘇る。TBSドラマの黄金期を支え、ホームドラマの名作を数多く手がけてきた八木康夫による企画プロデュースで、四姉妹を演じるのは、宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず。名だたる俳優たちの、かつてない華やかな競演が実現した。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」の企画プロデューサー、八木康夫氏に、本作品への思いなどを伺いました。
40年前の小さな約束を形にして
池ノ辺 今回、ドラマ「阿修羅のごとく」をもう一度やろうということになったのは、どういった経緯なんですか。
八木 1978年に向田邦子さん脚本の「家族熱」というTBSの連続ドラマがありまして、その時僕はそのADをやっていたんですが、出来た脚本を受け取りに伺うというのが僕の役割でした。
池ノ辺 向田さんのところに取りに行かれたわけですね。
八木 向田さんは、当時、ひと晩で、1話書き上げるというペースでしたから、だいたい朝の6時か7時くらいに取りに伺って、それを印刷所に入れるという仕事でした。ですから台本の打ち合わせをしたとか、そういうことではないんですよ。
池ノ辺 出来上がるまでずっと待っていたんですか。
八木 ずっとといっても居眠りしながらですけどね(笑)。それで脚本が出来たという連絡があると、タクシーで伺うんです。赤坂と南青山ですから割と近いんですよ。
池ノ辺 その時の向田さんはどんな様子だったんですか。
八木 自分にとっては雲の上の存在ですから、そんなに親しくお話しすることはできないし、しかも一晩ずっと書いてらしたから精魂尽き果てておられるだろうと思って、本当に脚本を受け取るだけで具体的な会話をした覚えはないです。ただ、最終回の時に、向田さんから「お疲れ様でした」と言っていただいたんです。それで、そんなことを言うつもりはなかったんですが、そのねぎらいの言葉に甘えてつい「いずれ一本立ちしたら、お仕事一緒にさせてください」と思わず口から出てしまったんです。そうしたら「いいわよ」と言ってくださって。まあリップサービスだと思うんですけど、6年前にTBSを退社してフリーになって、じゃあどんな企画をしようかと考えた時に、その時のやり取りを思い出したんです。いつかは向田作品を手がけたいという思いがあったんです。向田さんの脚本は大体は拝読していたので、改めて全部読んで、やはり「阿修羅のごとく」に尽きる、これをリメイクしようとなりました。
池ノ辺 その時から繋がっていた縁だったんですね。