Nov 16, 2024 interview

黒澤明賞受賞のフー・ティエンユー監督が語る 人とのつながりを描いた『本日公休』と日本への思い

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母の世代が持っていた人々のつながり、その普遍性

池ノ辺 監督の作品『本日公休』を拝見したんですが、風景が日本の田舎にすごく似ているんですね。あの理髪店に寅さんみたいな人たちが来ていたというのも想像できますし、何よりお母さんが素敵でした。どこの国でもお母さんは気持ちが一緒ですね。監督ご自身のお母さんをモデルにされているんですよね。監督のお母さまのこれまでの人生を撮ろうと思ったんですか。

フー この映画は私の実家の理髪店で撮影していますし、理髪師だった母がモデルであることは間違いないのですが、母自身を描こうと思ったわけではなくて、そこがテーマではないんです。私はその理髪店で生まれ育って、母は近所に多くの常連客を抱えていました。母とその常連さんたちのお付き合いというのはとても長く続いていて、お互いに気心の知れた関係だったと思います。私は、そういった人と人のつながり、あたたかい関係、そういったものを描きたかったんです。というのも、こうしたつながりは、特に台北のような都市ではもう見られなくなってしまったんじゃないかと思うんです。今の価値観とは違うんでしょうね。でも、例えば何らかの見返りを求めずに人に何かしてあげる、そうした価値観はとても尊いと思いますし大事にしたい。そしてそれは母たちの世代が持っていたものだと思うんです。

池ノ辺 日本も同じですね。昔ながらの散髪屋さんも無くなってきていますし何より人との関わり方もずいぶん変わってきてしましました。それは世界共通かもしれないですね。だからこの作品を観ると懐かしさを感じて優しい気持ちになります。

フー そう言っていただけてとても嬉しいです。この映画の資金を集めるためにフランス、イタリア、メキシコ、日本など、いろんな国でプレゼンをしました。いずれの国でも、「自分たちの社会と同じ状況だ」と共感してくれたんです。ですから私は自信を持ってこの映画を作ることができました。もちろん日本でも受け入れられるに違いないと思ってはいましたが、実際にこのような感想を直接お聞きして、とても嬉しいですし感動しました。ありがとうございます。

池ノ辺 こちらこそ素晴らしい映画を作ってくださってありがとうございます。最後に、監督にとって映画とはなんですか。

フー 黒澤明監督の著作に「蝦蟇の油: 自伝のようなもの」という作品があります。その中にある言葉「映画は私にとって自伝のようなもの」を私は自分が映画を撮る、映画監督としての目標にしています。黒澤監督は、あれほどの素晴らしい作品をたくさん撮っていらっしゃいますが、その1本1本の作品は、おそらく監督にとっては自伝のようなものだったんじゃないかと思うんです。

池ノ辺 確かに今回の監督の映画はそうですね。次に何を撮るかもう決まっているんですか。

フー 次は心理サスペンスを撮る予定です。ジャンル的には今回と全然違うものですが、そこはやはり私なりの心理サスペンスというものを撮りたいと思っていますので、ぜひご期待ください。

池ノ辺 楽しみにしています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
傅天余(フー・ティエンユー)

監督

1973年9月13日台中生まれ。国立政治大学日本語日本文学科、ニューヨーク大学メディア生態学・映画研究所を卒業後、作家として活動を始め、短編小説『清潔的戀愛』で第24回時報文学賞最優秀短編賞、『業餘生命』で中央日報文学賞最優秀小説賞を受賞する。その後、脚本家・監督のウー・ニェンチェン(呉念真)の指導の下に映画界のキャリアを開始し、テレビ映画やドラマシリーズの監督・脚本を手掛ける。2009年、『Somewhere I Have Never Travelled(帯我去遠方)』(映画祭上映)で長編映画監督デビュー。主演のリン・ボーホン(林柏宏)のデビュー作でもある。2010年にはアーティスト村上隆のドキュメンタリー『到死都要搞藝術』と本作のモデルとなった理容師の母親を記録した『阿蕊的家庭理髮』を発表。2015年の岩井俊二、スタンリー・クワン(關錦鵬)、ウェイ・ダーション(魏徳聖)製作のオムニバス『恋する都市 5つの物語』の第4話 日本・小樽編、2016年のアリエル・リン(林依晨)とリディアン・ヴォーン(鳳小岳) 主演のファンタジー『マイ・エッグ・ボーイ』(映画祭上映)の監督と脚本を務める。2023年に3年をかけて製作した『本日公休』を発表。2024年には台北電影節のイメージCMを担当。映画祭PR大使を務めるリン・ボーホンを『Somewhere I Have Never Travelled』の映像と再会させた。

作品情報
映画『本日公休』

台中の下町で40年にわたり理髪店を営む店主のアールイ。今日も、いつものように店に立ち、常連客を相手にハサミの音を響かせている。息子の卒業式に出席するために整髪にやって来る紳士、夢枕に立った亡き妻に「髪は黒いほうが良い」と言われ、初めて白髪染めにやって来る老人、親に内緒で流行りのヘアスタイルにして欲しいと懇願する中学生‥‥、時が止まったように見える店も、泣いたり笑ったり忙しい。

監督:フー・ティエンユー

出演:ルー・シャオフェン、フー・モンボー、ファン・ジーヨウ、リン・ボーホン、チェン・ボーリン

配給:ザジフィルムズ、オリオフィルムズ

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公開中

作品ページ zaziefilms.com/dayoff/

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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