Nov 16, 2024 interview

黒澤明賞受賞のフー・ティエンユー監督が語る 人とのつながりを描いた『本日公休』と日本への思い

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台湾・台中にある昔ながらの理髪店。女手ひとつで育て上げた3人の子どもたちも既に独立し、店主のアールイは今日も一人店に立ち、常連客を相手にハサミの音を響かせる。息子の卒業式に出席するため整髪に来た紳士、親に内緒で流行りのヘアスタイルにして欲しいと懇願する高校生‥‥。娘や息子に「こんな理髪店は時代遅れ」と言われても、40年続けた店と常連客を大切に想い、アールイは、せわしくも充実した日々を送っている。そんなある日、離れた町から通ってくれていた常連客の“先生”が病の床に伏したことを知ったアールイは、店に「本日公休」の札を掲げ、古びた愛車でその町へ向かうが……。

本作『本日公休』は、作家、MV監督としても活躍するなど多彩な才能をもつ台湾の俊英フー・ティエンユー(傅天余)監督の劇場長編3作目で、理髪師の母親をモデルに監督が脚本を執筆。台中の実家で実際に営んでいる理髪店で撮影を敢行し、3年の月日をかけて完成させたという。

本作が高い評価を受けたフー監督は、第37回東京国際映画祭で黒澤明賞を受賞した。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『本日公休』のフー・ティエンユー監督に、日本の映画、本作品への思いなどを伺いました。

日本映画、そして日本への思い

池ノ辺 黒澤明賞受賞、おめでとうございます。

フー・ティエンユー(以下フー) ありがとうございます。

池ノ辺 受賞に関してお気持ちはいかがですか。

フー 映画監督としてこのような素晴らしい賞をいただけるというのは、本当に光栄なことで、今でもまだ信じられないような気持ちです。知らせを受けた時にも「え?本当なの?」という感じでした。東京国際映画祭の審査委員の皆様に感謝したいと思います。特に私がずっと憧れていた山田洋次監督が、審査委員で、私の作品を気に入ってくださったということを聞いて、本当に嬉しくありがたく、夢のようです。

池ノ辺 山田洋次監督が憧れとおっしゃいましたが、日本の映画がお好きなんですか。

フー 山田監督の作品は、小さな頃からよく観ていました。特に、寅さんの『男はつらいよ』シリーズは、ほとんど観たんじゃないかと思います。

池ノ辺 そうなんですね。

フー この映画をなぜ好きなのかと考えてみると、寅さんは、私が育った実家の理髪店に来るお客さんたちに似ているんです。それでとても親しみを感じてしまうんです。

池ノ辺 台湾では、日本の映画は昔から上映されていたんでしょうか。

フー ビデオの全盛期には、多くの日本映画をビデオで観ることができました。私の子どもの頃です。でもその頃は、寅さんはおもしろいと思っていましたけど山田監督のことはよく知りませんでした。山田監督の他の作品をはじめ、いろんな映画を映画館でも観るようになったのは、大学に入ってからですね。

池ノ辺 大学では映画を専攻していたんですか?

フー 日本語文学科でした。サークルで映画サークルの部長をしていたんです。その時に日本映画をかなり観ました。そのサークルでは日本映画を系統的に観る上映会を企画したりしたんですよ。小津安二郎、成瀬巳喜男、是枝裕和といった大監督の作品を特集するような上映会をしました。

池ノ辺 なぜ日本語文学科を選んだんですか。

フー 日本の歌謡曲が大好きだったんです。特にJ-POPが好きで安室奈美恵さんの歌とかを聴きましたし、ちょっと恥ずかしいのですがV6のファンでした(笑)。あとは村上春樹さんの小説も大好きでよく読みました。