Nov 14, 2024 interview

黒崎博 監督が語る みんなの情熱が注ぎ込まれて生まれた幸せな作品 Netflixシリーズ『さよならのつづき』

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壮大なフィクションの中で、リアルをどう演じるか

池ノ辺 そうした、実際のレシピエントの方たちから受け取ったリアルな生の言葉を、今度は役者さんたちに伝えてくわけですよね。どんなふうに伝え、どんなふうに受け取られたんですか。

黒崎 もちろん、今お話ししたようなことも伝えました。それと同時に、こういう移植手術を受けて成功された方というのは、長い長い道のりを経てここに辿り着いたんだと。つまり今僕たちが話していたようなこと、倫理的な問題はどうなのかとか、さまざまな葛藤とか、誰かの命と一緒に生きていくことにフォーカスしてそういう話をするけれど、この作品で登場する成瀬という男は、昨日急に体調が悪くなって今日心臓移植を受けたわけではない。生まれた時からずっと体が不調で、そんな自分の体、自分の心臓とずっと向き合ってやってきて、30歳近くになってようやくタイミングが来て心臓移植という命のバトンタッチがあったわけです。たくさんのことを考え尽くして悩み尽くして、答えを自分なりに見つけてきた人だと思うんですね。だから、今、急に悩んでいるというような芝居は必要ないんじゃないかと、そう話しました。だから無理にそのことをドラマチックに演じる必要はないんじゃないかと。

池ノ辺 なるほど。

黒崎 僕たちフィクションを作る立場からすると、手術が行われて成功しましたという、そのモーメントはすごく大事なんだけれど、実際のレシピエントの方からすると、それはただの点で、そこからまた長い人生がある。命を受け取ったこれからこそ、一生懸命生きていこうとしている。だから前にも後ろにも長い人生が繋がっていて、手術とその成功は、その中ではただの一点に過ぎないわけですから、リアルに考えれば、そこだけを取り上げてことさらに「ドラマですよ」とやらなくていいんじゃないかという話をしました。

池ノ辺 それをわかっていても、演じる側としてはすごく難しいですよね。演じるにあたって、自分の気持ちと、いただいた心臓の持ち主だった人の気持ちとが、どんな割合で存在しているのか、その時のシチュエーションによって何パターンか撮影したと聞きましたが。

黒崎 そうですね。坂口(健太郎)さんが演じる成瀬は、キャラクターとしては心臓を移植したというだけじゃなくて、前の心臓の持ち主である雄介の記憶が乗り移っているという設定がありますから、演じる時に「これは何%くらい雄介が混じっていればいいのか、30%なのか35%なのか」、特に撮影が始まった頃は、そういう細かな調整をしました。そしていくつかのバージョンを撮って編集でチョイスするということをしたんです。ただ、半年以上にわたって撮影していたので、やっているうちに、そういう数字的な辻褄合わせは必要なくなってきました。長い時間成瀬を演じていた坂口さんが、役を自分の中に落とし込んでいってくれたので、そういう細かな設定は忘れて「成瀬は成瀬、それでいいんじゃないか」というところに落ち着きました。

池ノ辺 演じる役者も演出する監督も、大変だったんだろうなと想像します。

黒崎 確かに正解のない中での撮影で、手探りしながらでしたが、ただ、その手探りを一緒にやれたのはよかったです。

池ノ辺 先ほど、できるだけのリアリティーを、というお話でしたが、生田さんも坂口さんもピアノを練習して自分たちで弾いているとか。

黒崎 そうです。本人たちが徹底的に練習してくれて、結果、ワンカットも吹き替えは使っていなくて全部本人たちが弾いています。