内職で家計を支える母のもと、松本香(後のダンプ松本)は妹と明るく暮らしていたが、放蕩者の父がダンプカーの音を響かせて戻ってくると、家の中は修羅場と化す。そんな父を殺したいほど憎んだある雨の日、香は誘われるままに全日女子プロレス(全女)の練習場に足を踏み入れた。
バブル真っただ中の80年代を舞台に、心優しき一人の少女がルール無用の極悪プロレスラーになっていく姿を描く。全国民の敵と呼ばれた最恐ヒールの知られざる物語。
主人公のダンプ松本を文字通り体当たりで演じたのはゆりやんレトリィバァ、また、唐田えりかと剛力彩芽がクラッシュ・ギャルズを演じる。本シリーズの企画・プロデュース、脚本は鈴木おさむ、総監督は白石和彌が務めた。さらに長与千種が、自身が率いる女子プロレス団体Marvelousとともに、準備期間から女優たちの肉体改造とプロレスシーンを指導するスーパーバイザーとして参加している。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、Netflixシリーズ「極悪女王」の白石和彌監督と主演のゆりやんレトリィバァさんに、撮影中のエピソード、本作品への思いなどを伺いました。
オーディション、準備、撮影。ゆりやんレトリィバァがダンプ松本になるまで
白石 全話観てくださったんですか。
池ノ辺 もちろん拝見しました。予告編も作らせていただきました。
ゆりやん そうなんですか。ありがとうございます。握手してください。もう最高すぎて予告だけで涙が流れました。
白石 あの膨大な映像の量、あそこからピックアップするんですよね。
池ノ辺 そうなんです。最初は、男性ディレクターが担当予定だったんですが、この内容、辛さ、悲しみ、喜び、そういったところは女性じゃなければわからない部分もあるのではないか。そう思ったので、女性と男性、それぞれのディレクターに作ってもらいました。結果的に、ティーザー予告は男性の、本予告は女性のディレクターが作ったものが採用されました。白石監督は昔から女子プロレスご興味があったんですか?
白石 僕自身がプロレスファンだということもあって、ずっと見ていた世界観なんです。当時の全女も記憶に色濃くあるし、やっぱりセンセーショナルだったしで、この企画をやってみたいと思いました。そもそも好きなものを撮るって幸せじゃないですか。そういう意味では、これまでの仕事の中でもダントツに、自分の趣味に近い、趣味を仕事にできています。しかも、クラッシュ・ギャルズではなくダンプ松本の極悪同盟の方から描くという発想そのものがすごくユニークで、自分にマッチしていると思いました。
池ノ辺 確かにそうですね。配役は、最初から決まっていたのかと思ったら、ゆりやんさんはオーディションで選ばれたそうですね。
ゆりやん そうなんです。この「極悪女王」で描かれているダンプさんたちの活躍した時代に、私はまだ生まれていなくて、詳しくは知らなかったんです。でももちろんプロレスというのは知っていましたけど。オーディションは2020年の秋くらいにあったので、ちょうど4年前くらいですね。私はアメリカで売れるのが夢なので、白石和彌監督のNetflixの作品で主役のオーディションがあると聞いて、売れたいがために受けました(笑)。
池ノ辺 最初からダンプさんの役でのオーディションだったんですか。
ゆりやん そうでした。
白石 当時、ゆりやんが減量しているというのが話題になっていたんですよね。
池ノ辺 この作品のために減量していたわけではないんですか。
ゆりやん そんなことは全くなくて、私が作品とは関係なく勝手に減量していて、勝手にオーディションを受けにいったんです。
白石 減量しているのは知っていたし、でもここからまた体重増やして体を作らなければならないけど、それは大丈夫? という話はしました。
池ノ辺 (ロバート・)デニーロみたいになっちゃいますよね。
ゆりやん 奥歯抜きます(笑)。
池ノ辺 結局また太って、筋肉をつけなければとなったんですね。
ゆりやん はい。減量していた時から筋トレなんかはしてたんですけど、当時のダンプさんの見た目に近づけたいということで、減量とはまた違った体づくりになりました。プロレスラーさんの場合、太ももの前側が大きくなったり、肩が大きくなったり、背中がかっこよくなったりというのがあって、さらに人を担いだりするので体幹もしっかり鍛えなければならない。脂肪もつけなければいけないので食事も増やす必要がありました。プロレスラー役の仲間たちと、「もうこれ以上は食べられないよ」と涙を流しながら‥‥。
白石 ええ? そうだっけ? 撮影しているそばに、レスラー役の人たちのために食べ物が置いてあったんですけど、みんなニコニコしながら食べてましたよ(笑)。
ゆりやん 「すみません、せっかくご用意いただいたのに。でももう食べられないので今日はスタッフのみなさんで食べてください」と‥‥。
白石 いやいや、それは1回もなかった。泣きながら食べている人なんて1人も見たことないよ。「この仕事最高でーす」と言いながら喜んでみんな食べてたよね(笑)。
ゆりやん アハハ。Netflixさんにもサポートしていただいて、そういう準備期間で撮影期間でした(笑)。