Aug 02, 2024 interview

佐藤信介 監督が語る  爽快感と寂しさを感じた、長い旅の終わり『キングダム 大将軍の帰還』 

A A
SHARE

長い旅の終わり、その寂寥感

池ノ辺 今回は、第1作から始まったこのシリーズの最終章、一つの集大成になるわけですが、ここまでやってきていかがでしたか。

佐藤 終わってみるとまさにあっという間でした。やっている時は、大変なのも含めて日々の業務というかルーティーンみたいになってましたね。次々にやってくる障害物を避けたり、切ったり、叩いたりです(笑)。「大変だよ」と言うのもルーティーンで、もちろん実際大変は大変なんだけど、大変だからやめたいとは誰も思っていなかったと思います。

池ノ辺 監督も映画みたいに戦っていたわけですね(笑)。

佐藤 そうですね。戦って、もがいてました(笑)。よくわからない問題がいっぱい起こって、「またか」と思いつつも、それを解決していく快感みたいなものもあったり。だから意外とその大変さも含めてずっと楽しんでいたのかなと思っています。

池ノ辺 撮影も色々大変だったんですよね。

佐藤 撮影に関しては、いろんなことがあったね、という思い出というか、いろんな冒険をしたなと、まさに冒険というのが相応しいような数カ月でした。最後の素材撮りも含めて全体で1年半くらいかけて撮ったんです。その最中は「長すぎる、まだ撮ってるの?」という感じではあったんですけど、今は長い旅が終わったという爽快感ですね。そうしてこの4作目で、「監督、もう直すところはないですね」と聞かれて「ないです」と言ったのが最後、完成の瞬間です。

池ノ辺 寂しかったですか。

佐藤 寂しかったですね(笑)。できればもうちょっと浸っていたいという感じがその時になって‥‥。

池ノ辺 日本全国、全世界の人が作品を観るわけですから、浸っている暇はないですね(笑)。

佐藤 いつも完成すると思うんですよ。それまでは自分のコントロールの下、というとおこがましいですが、自分とスタッフで変更できる状態にあります。それが完成に近づくにつれ、一つずつ、「もうこれは変更できない」という段階を経ていくわけです。それでも最後まで、音響作業中は、音の変更はまだできる。完成間際でも、何日か前ならこのCGをちょっと直す、というのもできないことはない。まあ、やりすぎると怒られちゃいますけど(笑)、でも「これで完成」となるギリギリまでは、自分たちのものという感覚があるんです。でも完成すると、「これはもうお客さんたちのものだ」という気が僕はいつもするんです。ずっと関わり続けてきたけれど、やっと自分の手を離れて人の手に渡ったと。あとは皆さんに楽しんでもらいたいし遊んでもらえたらと、そう思っています。

池ノ辺 長い旅を一つ終えた監督に質問です。監督にとって映画ってなんですか。

佐藤 単純に言えば、映像と音によって作り出す、時間と空間かなと思います。あと、僕にとって映画は、 “そこでしか会えない人たちと会う場所” という感覚が子どもの頃からありました。だから、観終わった後に、もちろん「よかった」という感想もいいんですけど、僕の一番の理想をいうと、「ああ、この人たちにもう会えないんだな」という寂しさを感じるような映画が最高だなと思う。それはけっこう昔からそういうところがあります。「悲しすぎる、もうあの人たちはいないんだ、映画の中でしか会えない、どこにいっても会えない」と思ってもらえるような映画を作りたい、という思いもずっとありました。ですから、この『キングダム』で、まずは「これでもうみんなに会えないんだな」という寂寥感、これをぜひ味わってほしいですね。

池ノ辺 監督の集大成を、ぜひ多くの方たちに劇場で観て味わってほしいですね。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 藤本礼奈

プロフィール
佐藤 信介 (さとう しんすけ )

監督

1970年生まれ。94年、学生時代の自主製作映画『寮内厳粛』が、ぴあフィルムフェスティバル94 でグランプリを受賞し頭角を現す。『月島狂奏』『正門前行』と中編自主映画を続けて撮った後、『東京夜曲』で脚本家デビュー。『LOVE SONG』(2001)などを経て、『GANTZ』2部作(2011)、『図書館戦争』2部作(2013、2015)、『アイアムアヒーロー』(2016)を公開。『アイアムアヒーロー』(2016)では、米サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞、世界三大ファンタスティック映画祭であるポルト映画祭にて観客賞、オリエンタルエキスプレス特別賞、シッチェスカタロニア国際映画祭にて、観客賞、最優秀特殊効果賞を受賞。そして、ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭では、グランプリを受賞し、その年の世界三大ファンタスティック映画祭を、5冠制覇した。人気漫画を実写化した『キングダム』(2019)では第44回報知映画賞監督賞、第43回日本アカデミー賞にて優秀監督賞を受賞している。『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022)ではその年の邦画NO.1ヒットとなる。 NETFLIXオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』(2020、2022)シーズン2の視聴時間は配信開始から4週間で2億時間を突破。日本発のNETFLIX作品として最高記録を達成。90カ国でTOP10入りし、うち17の国と地域で首位を獲得した。『今際の国のアリス』シーズン3の制作も決定。

作品情報
映画『キングダム 大将軍の帰還』

秦と趙の全てを懸けた馬陽の戦いで、敵将を討った信と仲間たちの前に突如として現れた、その存在が隠されていた趙国の総大将・龐煖。自らを武神と名乗る龐煖の圧倒的な力の前に、次々と命を落としていく飛信隊の仲間たち。致命傷を負った信を背負って、飛信隊は決死の脱出劇を試みる。一方で戦局を見守っていた王騎は、趙に潜むもう一人の化け物の存在を。感じ取っていた。龐煖の背後で静かにそびえる軍師・李牧の正体とは。王騎と龐煖はなぜ馬陽の地に導かれたのか。因縁が絡み合う馬陽の地で、忘れられない戦いが始まる。

監督:佐藤信介

原作:原泰久「キングダム」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)

出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、新木優子、吉川晃司、小栗旬、大沢たかお 他

©原泰久/集英社 ©2024映画「キングダム」製作委員会

公開中

公式サイト kingdom-the-movie

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
映画が大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」記事一覧はこちら