Jun 27, 2024 interview

三木孝浩 監督が語る  切なさと、勇気と、生きるということを描いた『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』 

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いつ死ぬかわからないからこそ、その日のベストを尽くす

池ノ辺 監督は、そもそもどういうきっかけで映像の世界に入られたんですか。

三木 自分の中でエポックメイキングだったのは、大林宣彦監督の映画『時をかける少女』(1983)を観た時です。自分が実世界の中で感じていて、でもうまく言葉にして表現できない感情というものが、この映画の中にある。自分の抱いていたその感情と映画の中で描かれているものがシンクロしたんです。

池ノ辺 それってお幾つくらいのことですか。

三木 小学生でした。

池ノ辺 少年時代ですね。

三木 そこがスタートです。自分が表現したいと思うものが、この映像の世界だったら出せるんだ、表現できるんだと思い始めて、映画に憧れるようになりました。

池ノ辺 それで映画監督になろうと思った。

三木 そうですね。高校生くらいには、映像を作るということに興味を持っていました。

池ノ辺 実際に学生の頃から作ってますもんね。そして今や、ラブストーリーといえば三木監督と言われるくらいの人気ですが、監督にとってドラマ、映画、映像の世界はどういうものですか。

三木 恋愛映画で言うと、僕が一番大事にしているのは片思い目線なんです。誰かを好きになった時、この子のここの部分は自分だけが知っている、みんなは知らないだろうけどこの子のよさはこんなところにある。そういう感情は、実人生で誰もが一度は経験したことがあるんじゃないかと思うんです。そういう「自分だけが知っているこの子のいいところ」という目線は、一番思いのこもったいいカットになるんじゃないかと僕は思っています。だから映画でも、そういう時の目線とか表情を大事にしています。本当は、実人生で実際に相手にそう伝えられればよかったんだろうけれど、伝えられなかった、伝わらなかった、遂げられなかったその思いを映画の中で昇華しています。

池ノ辺 その時の甘酸っぱい気持ちを持ったまま、ずっと伝えたいと思い続けているということ?

三木 そうなんです。だから僕は恋愛映画が撮り続けられるのかもしれないという気がしています。

池ノ辺 確かにそういうものが感じられます(笑)。観ている方も同じような気持ちにさせられます。それは幾つになっても必要なことですよね。そういうところに監督はこだわっているんですね。

三木 そうですね。こだわっています(笑)。

池ノ辺 そういうものを若い人たちに観てほしいと。

三木 それは若い人だけじゃないと思うんです。リアルタイムの人だけじゃなくて、そんな甘酸っぱい思いを思い出の引き出しにしまっておいた人が、映画をきっかけにその引き出しをちょっと開けて、「あの時に純粋な気持ちの自分がいたよね」と味わってほしいというのもあります。

池ノ辺 それが次の日の活力になりますからね。

三木 なります、全然なります(笑)。

池ノ辺 では最後に、この映画を観た人、観ようかなと思っている人へのメッセージをいただけますか。

三木 今回は、「余命」がタイトルに二つも入るという、なかなかない作品です。自分たちは普段、よほどのことがない限り、自分の人生が、後どれくらい残っているのか、どれくらい生きられるかなんて意識しないです。もちろん、死への恐怖から、死について考えることを無意識に遠ざけている部分もあると思います。でも、自分がいつ死ぬかわからないからこそ、今を精一杯生きるということは大切なことなんじゃないだろうかと思うんです。ただ漫然と日々を生きるのではなく、折に触れ残りの人生を考えてその日その日のベストを尽くしていく。この映画が、そのきっかけになってくれたらうれしいです。

この映画の二人は、確かに人生の期限というものを与えられていたからこそ一生懸命生きられたということもあるんでしょうけど、でもその思いの眩しさというのは、自分も含めどれくらい残りの人生があるのかをわからなくても、その思いで生きるというのは可能なんじゃないかと思うんです。だから映画では、最後に二人の友達が思いのバトンを受け取って、その先を希望を持って生きていくわけです。同じように、この作品を観ている人もそのバトンを受け取って日々を素敵に生きてくれたらいいなと思っています。

池ノ辺 その通りですね。これを観たら、自分のことも周りの人のことも大切になると思います。本日はありがとうございました。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 藤本礼奈

プロフィール
三木 孝浩 (みき たかひろ )

監督

2000年よりミュージックビデオの監督をスタートし、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005/最優秀ビデオ賞、SPACE SHOWER Music Video Awards 2005/BEST POP VIDEOなどを受賞。以降、ショートムービー、ドラマ、CM等、活動を広げる。JUJU feat. Spontania『素直になれたら』のプロモーションの一環として制作した世界初のペアモバイルムービーでカンヌ国際広告祭2009/メディア部門金賞などを受賞。2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。長編2作目となる映画『僕等がいた』(2012)が、邦画初の前・後篇2部作連続公開。また、「連続ドラマW 闇の伴走者」(2015)では、初めてミステリーにチャレンジし高い評価を得た。その他の代表作は『陽だまりの彼女』(2013)、『ホットロード』(2014)、『くちびるに歌を』(2015)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)、『きみの瞳が問いかけている』(2020)、『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022)、『TANG タング』(2022)、『アキラとあきら』(2022)など。

作品情報
Netflix映画『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』

美術の才能に溢れ、二科展の入選を目指していた早坂秋人は、心臓に腫瘍がみつかり余命一年を宣告される。感情を押し殺しながら、毎日を淡々とやり過ごしていたある日、病院の屋上で絵を描く桜井春奈と出会う。自分が描いた美しい絵を、「天国。もうすぐ私が行くところ」とつぶやき、初対面の人間に「あと半年の命」とさらりと言う春奈に、秋人は次第に心惹かれていく。春奈には自分の病を隠し続け、大切な人のために必死になることで、秋人の残された無機質な時間に彩りが生まれていく。

監督: 三木孝浩

原作: 森田碧「余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話」(ポプラ社刊)

出演: 永瀬廉、出口夏希、横田真悠、杏花、秋谷郁甫、大友一生、月島琉衣、野間口徹、水橋研二、夙川アトム、木村文乃、大塚寧々、仲村トオル、松雪泰子

制作: 日活 ジャンゴフィルム

Netflixにて独占配信中

作品ページ netflix.com/jp/title/81581946

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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