Jun 21, 2024 interview

前田哲 監督が語る 観た人が幸せを感じられることを意識して作り上げた『九十歳。何がめでたい』

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ユーモアとチャーミングさに彩られた「どう生きるか」

池ノ辺 本作を拝見して、草笛さんは、そのまま愛子先生という感じでした。

前田 確かにそのままでした。でも時々逸脱するんです、いきなり踊り出したりして。それで「これはミュージカルじゃないですよ、草笛光子が出てますよ」と(笑)。それでも、作家としての威厳、確固たる信念をお持ちの、そういうところは出していってもらえたと思います。

池ノ辺 本物の愛子先生もですけど、劇中の草笛さんもおきれいでしたよね。

前田 そうなんです。あれはなんと言うか、ご本人の内面が出ているんじゃないでしょうか。ズルをしないで潔く生きてきた、そういうものが美しさとして顔にあらわれるんじゃないかという気がします。逆に誤魔化してズルして、というような卑しさが顔に出る人もいる。政治家なんかそうじゃないですか。どういう生き方をしてきたかが、そのまま顔にあらわれる。自分も気をつけなきゃいけないと思いました。

池ノ辺 監督の言われるような「潔さ」、そういうものが映画全体にあって、それが観ていて気持ちよかったです。そこは意識して作られたんですか。

前田 もちろん、観た人がどう感じるかというのは、この作品に限らず毎回意識して作っています。特に今回は、多幸感、観た人が幸せを感じられる、それはすごく意識しました。そして、原作はエッセイだから、そこにエピソードがあるわけです。が、その先に、どう生きるかといった人生の指針とか、愛子先生の持つユーモアとか、そこのところを描きたいと思ったし、それは演じる草笛さん自身のチャーミングさとか丁寧さというものにすごくマッチしたんだと思います。

世の中、嫌なことがいっぱいあるけれど、それを悔やんだり悲しんだりしていてもしょうがない。じゃあどうやって前向きに生きようか、嫌なことも、どうおもしろがって生きようか、そういう姿勢が、あのエッセイが人気となった理由だと思いますし、映画はその原作の思いをきちんと踏襲したかったんです。

池ノ辺 確かに愛子先生のエッセイは、読んでいて本当に元気になります。今回の映画も、まず役者さんたちが楽しそうに演じてた気がしますね。

前田 考えてみれば奇跡ですよ。そもそも実年齢が90歳の方が役で90歳を演じるというのは、いろんなリスクもありますし。でもその中で、凛とした愛子先生の姿を表現できたというのは、草笛光子さんだからできたことだと思います。